【紹介】 怪しい人物が僕の周囲に出没するようになり友人の協力を得て捕まえたところ、僕そっくりの女性でした。身長、体型も服装も僕と生き写しで性別だけが違う人物に会ってびっくり! その女性はこの世界とそっくり同じで各人物の性別だけが違うパラレルワールドから来たと主張しました。この世界と同じパラレルワールドというよりは、性別が反転しているミラーワールドが時空のどこかに存在する? 半信半疑のうちに僕そっくりの女性との交流が始まるのでした。

異世界からの訪問者:男女入れ替わり物語①

異世界からの訪問者
男女入れ替わり物語①


第一章 僕とそっくりの女

 五月十一日、木曜日の大学からの帰り道、歩きスマホでメールをチェックした。今朝グーグルから警告メールが届いていたことに気づいた。

「お使いのアカウントがアイフォンでのログインに使用されました。このアクティビティに心当たりがありますか? 最近使用した端末を今すぐ確認してください。グーグルではセキュリティを非常に重視しています。このメールは、お使いのアカウントで行われた重要な操作に関する最新情報をお伝えするために送信しています」

 問題のログイン日時は今日の午前六時五十七分となっていた。

 僕のスマホはアンドロイドだ。誰かがアイフォンを使って僕のアカウントにログインしたということになる。Gメールのパスワードは他のサイトでも使い回しているから、そこから漏れたのかもしれない……。

 アパートに帰って、ノートパソコンからGメールのパスワードを変更した。Gメールのパスワードはグーグル・ドライブとも共通だ。重要な個人情報は全てグーグル・ドライブに入れてあるから慎重を期さねばならない。それにしても異常なアクセスについて自動的に通知してくれるグーグルのサービスはありがたいものだ。ひとまずほっとして、それ以上、気には留めずにいた。

 火曜日の朝、大学へと向かう道で、誰かに見られているような気がした。何度か立ち止まって周囲を見回したが、特に異常なことは見当たらなかった。

 それは奇妙な感覚だった。突き刺すような視線ではないが、身体の中まで透視されているかのように感じた。異性から横顔を見られるときの感覚に似ている。ストーカー? まさか、僕はストーカーに追い回されるほどのイケメンや美少年ではない。丹念に周囲を見回したが、怪しい人影は皆無だった。

 二時限目が終わって、いつものように学食で鶴見航太、神崎莉穂とおしゃべりした。航太と莉穂は入学して以来の仲間だ。

 莉穂が突然僕に思いもかけない質問をした。

柚葉ゆずはって変な趣味ある?」

「何だよ、いきなり」

「昨日の夕方、アタシがJR浅草橋駅の女子トイレで手を洗っているのをじっと見ていなかった?」

「バカな! 僕が女子トイレを外から覗き込んだりすると思う?」

「それならまだマシだけど、トイレの中で 見ていたのよ。アタシの斜め後ろに立って、鏡の中のアタシの顔をじっと見ていたの」

「変な趣味どころか、その男がしたことは犯罪だよ」

「それが……女みたいだったのよ。アタシと視線が合ったらすぐ顔をそむけて、個室に入った。アタシ、急いでいたからそれっきりになったんだけど」

「要するに、トイレで僕そっくりの女性と会ったということだね。それならそうと言ってくれよ。他人が聞いたら、僕が変態だと疑うような言い方をしないで欲しいな」

「双子の姉妹は居ない?」

「三つ上の姉と二つ下の妹がいるけど、二人とも母似で僕だけは父似だから、ちっとも似ていないし、姉と妹の方が僕より背が高いんだ。並んでいても家族だとは分からないぐらいだ」

「本当に変なのよね。顔と身体つき、それに雰囲気が柚葉と生き写しなんだけど、その人の胸には確かにお乳があった。一番不自然なのは服装が柚葉そっくりだったということよ。男物のカーキ色のコットンパンツにボーダー柄のポロシャツ。超ダサイ組み合わせでしょう?」

「ふん、悪かったね。つまり僕そっくりの女が、僕と同じ超ダサイ服を着て、莉穂を女子トイレの中まで追いかけたってことか。もう少し現実性のある話じゃないと面白くないんだけど」

「作り話なんかじゃないわよ。本当にその女の人に会ったんだから」

「じゃあ、今度見かけたら、僕が会いたがっていたと伝えといて」

 午後の講義を受けている時も、莉穂の話が頭から消えなかった。莉穂は血液型がAで真面目なタイプだ。僕そっくりの女性と遭遇したという程度の作り話をする可能性はあるが、会った場所が女子トイレで、しかも僕の服装で莉穂がダサイと考えていた組み合わせの男装をしていたというのは、作り話としてはセンスがなさすぎる。莉穂は基本的に僕に対して好意を抱いてくれているはずだから、変なことを言うはずがない。いつも鶴見航太と三人で一緒に行動していたのでなければ、莉穂と僕は将来の結婚を意識して付き合う関係になっていたのではないかと思う。

 大学からの帰り道、僕は何度も立ち止まり、カーキ色のコットンパンツにボーダー柄のポロシャツで男装した女性が居ないかと周囲を見回した。勿論、そんな人物に遭遇するはずはなく、スーパーで買い物をしてからアパートに帰った。

 その時、アパートの玄関の左横にある郵便受けの裏側から怪しい人影が背を屈めるようにして僕の横をすり抜けて逃げて行った。一瞬なので顔は見えなかったが、それは莉穂が見た不審人物だと直感した。カーキ色のコットンパンツにボーダー柄のポロシャツを着ていたからだ。

「待てーっ!」

 僕は一瞬遅れて、その人物の後を追いかけた。後姿は中性的な細身で、僕より少し長い程度のショートヘアだったが、確かに女性だった。足がとても速く、スーパーの買い物袋を持っていた僕はあっという間に離されてしまった。

 追跡を諦めて、郵便受けから不動産のビラ二枚、封書二通とハガキを取ってエレベーターに乗った。あの女が僕の郵便受けの中をチェックしたのは間違いない。というのは、不動産のビラと郵便物がきれいに揃った状態で入っていたからだ。普段、郵便物が揃った状態で入っていることはあっても、ビラまで一緒に揃えられていることはない。

 部屋に入り、タンスの中をチェックしたところカーキ色のコットンパンツとボーダー柄のポロシャツが入っていた。あの女は少なくとも僕の服を盗んだのではなかった。

 僕そっくりの顔と身体つきの女性が、どんな目的で僕そっくりの服装をしているのか、それもどうしてよりによってダサイ服を選んだのか、全くの謎だった。シャレや冗談でやっているのなら、今日、逃げはしなかったはずだ。

 誰が何のためにそんなことをしているのか、皆目見当がつかなかった。

 翌日、航太、莉穂と連絡を取り、一時限目の後に学食で会った。僕は昨日の怪事件について二人に話した。

「ほら、アタシがウソを言っていなかったことが分かったでしょう?」

「ごめん。顔はよく見えなかったけど、あの服装には度肝を抜かれたよ。若い女性があんな服を着るのは常識外れというか、不気味だった」

「若い男性が着ていても、結構不気味なんだけど……」

「逃げていく後姿は、一見精悍そうに見えて、ヘナヘナした感じだったし、腰からお尻が中性的だった」

「今度柚葉の後姿を動画に撮って見せてあげるけど、それはまさに柚葉の後姿と同じよ」

「もう少し真剣に心配してほしいな」

「とにかくその女を捕まえましょうよ」

「そうだな、どこかで待ち伏せしよう。やっぱり柚葉のアパートの周辺で待つのがいいんじゃないかな」
と航太が提案して、三人で作戦を練った。

「分かっている事実をリストアップしよう。一昨日の朝、僕のグーグル・アカウントに不正アクセスがあった。一昨日の夕方には、莉穂がJR浅草橋の女子トイレでその女に後ろから見られた。昨日の朝、僕はずっと誰かにつけられている感じがあった。そして昨日の夕方、僕のアパートの郵便受けをその女が探っていて、僕を見ると逃げた」

「その女は柚葉と顔がそっくりで、身長、体格も酷似している。でも、双子の兄妹でDNAがそっくりなら、性別が違うからその女は小柄なはずよ。柚葉は男なのに百六十三センチしかないから、女だったら百五十センチそこそこになるんじゃない?」
と莉穂が問題提起した。

「なるほど、一理あるな。じゃあ、こう考えればどうだろう。柚葉の双子の弟が、背が伸びた後で性転換して女性になった」

「飛躍しすぎだよ。僕は双子じゃないし」

「何か深いわけがあって、ご両親が双子の弟を里子に出したのかもしれないわよ」

「そんなことを言われると心配になるじゃないか。念のためにお母さんに電話で聞いてみようかな……」

「お母さんの声を聞きたいのなら電話すればいいけど、もし図星だったとしても柚葉のお母さんが正直に答えるとは思えないわ。ところで、その女は郵便受けの中身を覗いただけで、郵便物を開封したり盗んだりはしていないということよね?」

「多分ね」

「柚葉のことを探っている女が、アタシの後をつけてトイレに来たということは、柚葉の交友関係を把握してるってことだわ。顔を見てアタシと認識できるほど、ちゃんと調べあげている。プロの探偵じゃないとそこまでは調べられないものよ。アタシの次は航太の後をつける可能性があるんじゃないかな?」

「その可能性はあるね。航太じゃなくて、もう一度僕の後をつける可能性も高い」

「じゃあ、その女をおびき寄せるためには、柚葉と航太が一緒に歩くのが一番じゃないかな。アタシが変装をして、周囲にあの女が隠れていないかどうかを確かめながら後をつける」

「さすが莉穂、頭いいな!」
 僕と航太は声を合わせて絶賛した。

「大学から柚葉のアパートに向かって歩くのが、女をおびき寄せられる可能性が高いと思うわ。その女はきっと柚葉の通学路を把握しているでしょうから」

「じゃあこうしよう。今夜、僕のアパートで一緒にすきやきパーティーをしよう。僕と航太はここで三時に集合して僕のアパートに向かう。途中のスーパーで肉と野菜を買って、女が後をつけやすいようにブラブラと帰ろう。莉穂は少し離れた所から僕たちの後をつけてくれ」

「その案には一点だけ難があるわ。アタシ、ダイエットしているから、すきやきじゃなくて、キムチ鍋にしてほしい」

「分かった、キムチ鍋で手を打とう」
と僕が宣言してひとまず解散した。

 僕は午後三時少し前に学食で航太と合流した。

「莉穂の姿が見えないけど、遅れているのかな?」

「俺たちが見ても分からないほどの変装をしてるんじゃないか?」

「そうそう、男装してたりして」

「あたりをキョロキョロ見回していると、その女が警戒して俺たちに近寄らないぞ」

「そうだな。莉穂は遅れて来たとしても僕たちが通る道は分っているから、気にせずに行こうよ」

 僕と航太は午後三時五分に学食を出た。

 太陽は天頂を過ぎて暖かい日差しが背中を心地よくする。午後の歩道を航太と並んで歩いた。

「何もかも思い過ごしだったってわけじゃないだろうな? 世界には自分そっくりの人間が三人いると言われている。たまたま柚葉と似た女性が莉穂と同じトイレに行ったり、柚葉のアパートの周辺を歩いていただけかもしれない」

「僕と同じ『超ダサイ』服装でか? それは確率的にあり得ない。単に僕と似た女性ならどこかにいるかもしれないけど」

「柚葉、後ろを振り向かずに聞け。俺が今柚葉を見た時、左斜め後ろの塀の陰にサングラスをかけた不審な女が見えた。真っ赤なミニスカートで野球帽をかぶっていた。きっとあいつがそうだ」

「真っ赤なミニスカートに野球帽、しかもサングラスか……。怪しすぎる!」

「お互い、気付いていないふりをして歩こうぜ」

 緊張して鼓動が高まる。それでも、前を向いてつまらない冗談を言いながら歩く。

 角を左折して行きつけのスーパーへと向かった。曲がる際にさりげなく左後方に視線を走らせたが、人影は目に入らなかった。

「キムチ鍋ということは、白菜とキムチだな。大根、シイタケ、シメジ。それにニンニクも買おう」
と僕は野菜類をバスケットに入れた。

「莉穂も一緒だからニンニクは控えようよ」
 そんな気遣いは航太らしくないと思った。

「別にいいじゃないか。キスさせてくれるわけじゃないんだから」

「にんにくを入れるよりは、キムチの大きいパックを買えば同じことだよ。小松菜が今日のセールで安いから小松菜も入れよう。量を増やしたいから、もやしは三パック買おう」

「航太って主婦みたいだな」

「豚肉のバラ肉でいいのかな? 安いから多めに買おうか?」
と言って、航太は豚バラ肉の大きいパックを二つ、ドサッとバスケットに入れた。

「見えたぞ! ふた筋向こうから野球帽でサングラスの女が僕たちを見ている。僕たちが気づいたことが分かったら逃げるだろうから、知らんふりをしよう」

「そうだな。スーパーを出たところで捕まえようか」

「捕まえるって? 手や肩を掴んで、もし痴漢だと言って騒がれたらどうするんだ? どこかに追い詰めて話を聞くしかない」

「やりにくいな……」

 僕たちはレジに並んだ。僕たちの番になってレジをしている時に、野球帽にサングラスの女が店の出口から外に出ていくのが見えた。

「今、外に出たぞ」

「ああ、俺も見たよ。とにかく気づかないフリを続けよう。柚葉のアパートの郵便受けエリアに誘い込んで挟み撃ちにできればいいんだけど」

「とにかく女の体を触らないように注意しよう。『キャーッ、痴漢!』と叫ばれたら僕たちの負けだ。男二人が知らない女性を挟み撃ちにするのは非常にまずいからな」

 買ったものを二つに分けてスーパーのビニール袋に入れた。僕のアパートまでは徒歩で二、三分の距離だ。

 数十メートル先の物陰から赤いミニスカートに野球帽の女が突然姿を現し、僕のアパートを目指して駆けて行った。

「見たか?」

「うん、見た。追いかけよう」
 僕たちはアパートに向かって走った。買い物袋を提げているので思うようには走れないが、必死で走った。

 僕のアパートの入り口が視界に入ったのは、ちょうど赤いミニスカートに野球帽の女がアパートの中へと駆け込んだ時だった。

 まもなく、航太と僕はアパートの入り口に着いた。中からあの女が出てきたら行く手を遮ることができるように横に並んで入っていった。

 その時、郵便受けのある奥まった場所から走り出て来たのは、カーキ色の綿パンにボーダー柄のポロシャツという男装をした女だった。

「捕まえて!」
 奥から莉穂の声がした。女は僕たちを見て後ずさった。

 赤いミニスカートと野球帽にサングラスの女性がその女の後方から出てきて体当たりし、よろめいた女に駆け寄って右手にガチャリと手錠をかけた。

「確保!」
と叫んだ声で、サングラスの女が莉穂だったことが分かった。

「刑事かよ!」
 僕と航太が同時に叫んだ。

 それにしても莉穂が手錠を持っているとは予想外だった。

「何をするんだ、お前ら!」
と、男装の女が男性のような口調で叫んだ。

 僕は冷静かつ慎重に彼女に言った。

「ご存知と思いますが、僕は小名山おなやま柚葉です。あなたはどなたですか?」

 三十秒ほどの重い沈黙があった。莉穂は手錠が掛かっていない右手でサングラスを外して、男装の女を睨みつけた。

「僕の名前も小名山柚葉です」
と男装の女が僕を直視してはっきりとした口調で言った。もしちゃらちゃらとした口調でそんなことを言っていたら、三人で詰め寄って、それ以上の冗談は言わせなかっただろう。しかし、男装の女の表情と態度には、いい加減な対応を許さない何かがあった。


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