日本で同性婚が許可になった日:鈴太郎の恋(TS小説の表紙画像)

日本で同性婚が許可になった日
(鈴太郎の恋)

【内容紹介】日本で同性婚が合法化されて間もない頃、新入社員の鈴太郎は男性上司から突然プロポーズされる。高校時代に上級生だった元カノが同じ会社で働いていることも判明し、鈴太郎は3人の男性と元カノの間で翻弄される。男性サラリーマンが一般職OLにされてしまうTS小説で、同性婚シリーズ第2弾。

まえがき

 二〇一五年六月に出版した小説「日本で同性婚が許可になった日」は、その少し前に報道された二つの重大なニュースに触発されて書いた小説でした。

  • 二〇一五年の三月に東京都の渋谷区議会は同性カップルを「結婚に相当する関係」と認める証明書の発行条例案を総務区民委員会で賛成多数で可決しました。

  • 二〇一五年五月二十二日、アイルランドで同性婚を合法とする憲法改正の是非を問う国民投票が行われ、翌日開票の結果、賛成多数で合法化が決定しました。

 その後、多くの自治体が渋谷区の後を追い、本書を執筆する時点で三十を超える自治体が既に同性パートナーシップ制度を実施しており、更に五十を超える自治体が導入を予定あるいは検討中となっています。

 世界に先駆けて同性婚を合法化したのは二〇〇一年のオランダですが、それに続いてベルギー、スペイン、カナダ、南アフリカ、ノルウェー、スウェーデン、ポルトガル、アイスランド、アルゼンチン、デンマーク、ブラジル、フランス、ウルグアイ、ニュージーランド、イギリス、スコットランドが二〇一四年までに順次同性婚を合法化しました。

 二〇一五年以降に同性婚を合法化したのはルクセンブルグ、メキシコ、アメリカ、アイルランド、コロンビア、フィンランド、マルタ、ドイツ、オーストラリア、オーストリア、台湾です。

 北米と西欧の主要国で同性婚が合法化されていないのはイタリアぐらいのようです。但し、イタリアでは同性婚に近い「シビルユニオン」が合法化され、同性カップルは同じ姓を名乗ることができ年金受給や遺産相続の権利も認められています。

 欧州全体で言えば、まだ同性婚が合法化されていないのは東欧諸国、ギリシャ及びバルカン半島諸国、そしてアジアにまたがる大国ロシアです。中南米の過半数、南ア以外のアフリカ諸国、イスラム諸国、台湾以外のアジア諸国でも合法化されていません。イスラム諸国では同性愛で死刑になる国も多いので同性婚が認められる可能性は無さそうです。

 アメリカ合衆国では州ごとに状況が違い、一進一退も否めませんが、世界の潮流は明らかに合法化へと進んでおり、G7の中で日本だけが取り残されているという事実は認識しておくべきだと思います。

 日本で同性婚が合法になる日は来るのでしょうか? 

 その質問に対する答えは「イエス」だと思います。対処が遅れると「セクシュアルマイノリティーの人権が認められていない国」として他の先進国からあからさまな非難を浴びる日が遠からず来るでしょう。例えばドイツの大企業の東京駐在員の配偶者(同性)が日本の法律では配偶者としての扱いや権利が得られないことを声高に訴え始めると、日本は人権後進国のレッテルを貼られることになります。

 すなわち「日本で同性婚はいつ合法になるでしょうか?」という質問の方が現実的です。

 二〇一九年の五月にアジアで初めて台湾が同性婚を合法化したのは衝撃的なニュースでしたが、日本は外圧に弱いので、ひとたび同性婚の合法化の動きが始まればあっという間に成立するかもしれません。

 二〇一五年出版の「日本で同性婚が許可になった日」の主人公の文夫は同性婚関連のニュースを見て「僕には関係ないけど」と思っていた普通のサラリーマン男性でしたが、ある日課長から食事に誘われてレストランに行ったところ、指輪を差し出されてプロポーズされてあたふたしました。

 ある意味でベタな発想でしたが同小説はご好評を頂き、同性婚がテーマの小説をもっと書いて欲しいとのリクエストを頂きました。そこで、同性婚のテーマでシリーズ化しようと思いつき、若いサラリーマン鈴木鈴太郎すずたろうを主人公とする第二弾を書きました。

 同性婚はセクシュアルマイノリティーの権利として一括ひとくくりにされがちですが、本来同性婚はLGBTのLとGのためのものであり、Tを主戦場とする性転のへきれきTS文庫のテーマとしては必ずしも適切とは言えないところです。二〇一五年出版の第一弾では、同性婚が合法化された思いがけない余波としてG性向が皆無の一般ノーマル男性がTに追いやられるというストーリーになりましたが、さて今回の鈴太郎はどうなるでしょうか? 

第一章 僕はコクったことがない

 僕は生まれてから今日まで女性に告白したことがない。

 女の子に対して好きという感情を初めて抱いたのは小学校二年の時に隣の席になった寺内亜美だ。一度亜美の家に遊びに行ってから仲良くなり、ある日「大人になったら結婚しようね」と言われて「うん」と答えた時の恥ずかしさと戸惑いの混じった高揚感は今でも覚えている。

 小学校五年の時にも同じクラスになった香奈から修学旅行の帰りに「大人になったら結婚してね」と言われて「うん」と答えた。

 中学時代は僕の人生のピークで、自分で言うのもなんだがうんざりするほどモテた。「付き合ってください」と告られた女子の数は両手両足の指を使っても数えきれない。顔と名前が結びつかない女の子から「好きです」と言われたことも何度かあったので全員の名前は覚えていない。特定の彼女は作らなかったが、女子の大半が僕の友達と言ってよかった。

 高校は進学校に進んだ。高校生になった途端、ウソのようにモテなくなった。同じ中学から来た女子は僕のクラスでは谷崎杏奈だけだったが、中学時代には僕をスターのように扱っていた杏奈だったのに、手のひらを返したように態度が変わって、僕を無視はしないまでも軽視するようになった。

 高校に入って間もないころ、僕が杏奈を含む女子四人と立ち話をしている時に、他の中学から来た別のクラスの男子二人が通りかかり、女子の一人が声をかけて彼らも話に加わった。その途端、女子全員の目がキラキラと輝いて、声のトーンが上がった。杏奈までがブリッコのような口調になったので僕は唖然とした。間もなく男子二人が立ち去ると女子四人のテンションががくんと下がり、声のトーンが元に戻って元通りの態度になった。四人の女子は僕にはあの二人の男子と同じレベルの興味を持っていないのだと痛感して、居たたまれない気持ちになった。

 後で杏奈に「さっきの男子二人を知っているの?」と質問した。

「背が高い方が一年二組の園田君で、百七十二センチぐらいしかない方の人は名前は知らないけどいつも園田君と一緒にいる人よ」

 杏奈の答えを聞いて、四人の女子の態度が変化した理由が分かった。彼女たちのテンションを上げたのは男子の身長だったのだ。百七十二センチは男子の平均であり、杏奈は「百七十二センチぐらいしかない」と言ったが、その男子に向ける視線も僕への視線とは別格だった。その頃の僕の身長は百六十二センチで、「しかない」方の男子より十センチも低かったから杏奈にとって僕は「論外」の存在だったのだろう。

 そう意識して女子たちの動向を観察していると、僕の推論が正しかったことが分かった。身長が百七十五センチ以上の男子は余程の変人かデブでもない限り文句なしにモテる。百七十から百七十五の平均的な身長だと、顔、性格、能力のどれかに特徴があればモテる。百六十センチ代の後半だと、何か抜きんでた特徴があればモテる。おそらく女子たちは高校生になると男子を結婚相手の候補者としての評価基準でランク付けするようになるのではないだろうか。

 僕たち男は中学でも高校でも一貫して女子を顔とスタイルで判断し「ブス」は論外と片付ける。平均より十センチも低い僕は女子たちから「どうしようもないドブス」と位置付けられているのだ……。

 すっかり自信を無くし、僕の高校生活は出鼻をくじかれてお先真っ暗になった。僕の人生の残りは惨めな下り坂になろうとしている。そうなるだろうと僕はほとんど確信していた。

 

 高一の三学期も半ばを過ぎた二月十四日の朝、僕は学校を休みたい衝動に駆られた。先々週、生徒会から「バレンタインデーの義理チョコは原則として禁止です」という放送が流れてからバレンタインデーが近づいたことを意識していた。何日か前から女子たちがバレンタインデーの話をしていることにも気づいていた。昨日は男子どうしで「明日はチョコレートがいくらでも入るように大き目のショルダーバッグを持ってこなきゃ」と冗談を言い合っていたが、僕はその会話に入れなかった。僕に本命チョコをくれる女子が居るはずはなく、今日学校に行けば惨めな思いをするのが目に見えている。

 心に鞭を打って登校すると、予想通りの一日が待っていた。義理チョコは禁止されているはずだったのに、リボンのついた箱を何個も持って来ている女子どうしが「本命とナンバーツー、おさえが三人で合計五つよ」などと楽しそうに言い合っている。中には周囲の目を気にせずに本命の男子の席にチョコレートの箱を持って来て「好きです」と告げる強者つわものも居たが、殆どの場合は廊下で待ち伏せしたり、あまり人目につかないようにそっと渡していた。

 僕と仲がいい隣の席のサッカー部の折野俊太は朝からモテモテで、休み時間にトイレに行くたびに両手にチョコレートを抱えて席に戻って来た。昼休みには、よそのクラスの女子三人が折野の所に来て、三人一緒に「好きです」と言って三者三様に手を凝らしたチョコレートの箱を渡すと、キャーキャー言いながら走り去った。昼休みが終わって席に戻ると、折野がパンパンに膨れ上がったショルダーバッグの中から中ぐらいの大きさの箱を取り出して僕に渡した。

「おすそわけだよ。多分よそのクラスの誰かがくれたやつだけど、そいつが知ったら気を悪くすると思うからバッグの底にしまっておいてくれ」

「でも、贈り主の気持ちがこもったチョコなのに……」

「チョコはチョコだよ。俺の気持ちをこめてお前にプレゼントするんだからもらってくれ。ただ、バレンタインデーに俺がお前にチョコをプレゼントするというのは逆だけどな、アハハハ」

「こいつ、僕は女役だと言いたいのか!」
と口だけで文句を言った。横流しされたチョコレートだったが、折野の気持ちが嬉しかった。それに、今日家に帰った時に「チョコゼロの惨め男子」の姿を家族に見せずに済むのでほっとした。

 午後の二時限目の前の休み時間にトイレに行った帰りに、廊下で杏奈が待っていて僕に小さな包みを差し出した。

「ハイ、これ、鈴木君に」

「義理チョコは禁止だと言っていたのに」

「義理じゃないわよ。本命でもないけど、鈴木君は特別な人だったから」

 杏奈が過去形で言ったのは、今は特別な人ではないと言う意味だと思った。

「中学時代に鈴木君に本命のチョコを二度あげたんだけど覚えてないでしょうね」

「そうだったの? どうもありがとう」

「これからも仲良くしようね。元気出して!」
と言って杏奈は小走りで立ち去った。

 杏奈にとって一、二年前には僕が本命だったのだ。その時に杏奈を彼女にしておけば、高校生になってから惨めな思いをせずに済んだのに……。

 杏奈からもらったチョコレートは、折野からもらったチョコの五分の一ほどの大きさだったが、一生食べずに大事にしようと思った。僕はどん底のドブスではない。少なくとも一人はかつてはモテた男子としての記憶と敬意を持ってくれている女子がいる。それは僕にとって重大な事だった。

 午後の授業が終わって一人で教室を出た。結局、折野はショルダーバッグにチョコレートが入りきらず、大きなビニール袋を手に持って帰った。折野が「おすそわけ」したのは僕だけのようだった。思い返せば、モテ男の折野がチョコと一緒に運気をおすそわけしてくれたから、杏奈から「義理ではないチョコ」をもらえたのではないだろうかと思った。折野はドン底だった僕の運気に転機を与えてくれた恩人だと言える。

 校門に差し掛かった時、その解釈が間違っていなかったことが証明された。校門の手前に女子サッカー部のエースで二年生の斉藤玲奈が立っていた。普通、サッカーをする女子は身体はカッコよくても顔は大したことがない人が多いのだが、斉藤玲奈は目をひくほどの美人で、しかもスラリと背が高いので、一年生の男子の間でも名前が知られていた。

 玲奈の方は僕を知らないだろうが、視線が合ってしまったので軽くお辞儀をした。すると、玲奈がまっすぐ僕の方に歩いて来た。僕は何かまずいことをしでかしてしまったのだろうか……。緊張して背筋を伸ばした。そばで見ると玲奈は思ったよりずっと背が高かった。

「鈴木君、私と付き合ってください」
 玲奈がリボンが付いた箱を差し出して僕に最敬礼をした。

「えっ、人違いじゃないですか? 僕、一年一組の鈴木鈴太郎すずたろうですよ」

「私の視力は左右二・〇なのよ。バレンタインデーに本命の男子を見間違えるはずがないわ」

 いきなり本命と言われてドキドキしたが、
「えへへ、今日は何人目の本命なんですか?」
と照れ隠しに言った。

「高校に入ってから一人目よ。私はバレンタインデーにチョコをもらう方の立場だから……。秋の大会の時に折野君と一緒に女子サッカー部の応援に来てくれたでしょ。あの時に初めて鈴木君を見てからずっと気になっていたの。もっと早くアプローチしたかったけど、忙しくてできなかった」

「マジですか? あ、わかった! 折野に頼まれて僕をからかってるんでしょう」

「私が冗談で男子に告ったりできると思う? 本気かどうか私の目を見て判断して」

 玲奈の美しい瞳には真実が満ち溢れているように見えた。

「自分より背が低い男子でもいいんですか?」

「鈴木君は百六十センチぐらいかな?」

「四月の健康診断では百六十二でしたけど、今は百六十三ぐらいになっているかもしれません。斉藤先輩は百七十以上あるんでしょう?」

「四月の健康診断では百六十九センチだったわ。私はきれいな顔の男の子が好きなの。身長はどうでもいいのよ。鈴木君も六センチぐらいの身長差を気にすることはないわよ」

「本当ですか!? 夢みたい……」

「ということは答えはイエスだと思っていいのね?」

「はい、こんな僕でよかったらよろしくお願いします」

「ヤッター!」
と玲奈がガッツポーズをするのを見て僕は天にも昇る気持ちになった。長くて暗い冬が明けて、中学の時のようなモテ期が復活した。相手は玲奈一人でいい。僕はもうドブスではなくなったのだ! 

 

 翌日から僕の学校生活はバラ色に変わった。僕はもう「彼女がいる」人間であり、他の女子から軽視されようが無視されようが関係ないし、女子たちが折野や他の男子に憧れの視線を注ぐ姿を目にしても羨ましくはない。中学時代のような自信が蘇り、何かにつけポジティブ思考ができるようになった。

 玲奈は学年が違うし、授業が終わると遅くまでサッカー部の練習があるので、学校で会う機会は殆どない。たまに顔を合わせると微笑みを交わす。それだけで幸せだった。

 時々、学校の帰りに運動場で女子サッカー部の練習を見に行く。男子サッカー部の場合はファンの女子が毎日のように見に来て黄色い声で「松岡さーん」とか「折野くーん」と叫んでいるが、女子サッカー部は校庭の反対側で練習していて、応援に適した場所が無い。たまに女子のファンが見に来るが、男子はまず来ない。僕が女子に混じって「斉藤さーん」と叫ぶわけにはいかないから、遠くの方で見るだけだ。サッカー部員は何故か小柄な女子が多く、玲奈は頭ひとつ抜きんでている。男子サッカー部に入ってもやっていけそうなほど俊敏でテクニックがあり、見ていて惚れ惚れする。練習を見に来る女子の殆どは「斉藤さーん」と叫んでおり、玲奈が女子にとって憧れの人だと分かって誇らしい気がした。

 玲奈と近くで会えるのは週末だった。デートをするというよりも、女子サッカー部の試合を見に行って、帰りに一緒にマックかすき家で話をするというパターンだった。サッカー部の女子はエースでキャプテンの玲奈に一年下のボーイフレンドが居ることに気付いているが、玲奈が僕と付き合っているという噂は広がらなかった。それだけ玲奈が部員たちから尊敬されていたからだろう。

 杏奈が僕と玲奈の関係に気付いたのは四月に入ってからだった。幸い、二年になっても僕は杏奈と同じクラスになっていた。

 廊下で玲奈から対外試合の日程表を手渡される所に杏奈が通りかかったのでまずいと思っていたら昼休みに杏奈に捕まった。

「バレンタインデーをきっかけに急に元気になったから、私のチョコが効いたのかと思っていたんだけど、もしかしたら女子サッカー部のエースと付き合い始めたんじゃない? 先月も学校の帰りに鈴木君が女子サッカー部の練習を見ていたから変だなとは思っていたのよ。折野君に頼んで紹介してもらったの?」

「誰にも言わないと約束してくれる? 実はバレンタインデーの日、学校の帰りに斉藤さんからチョコレートをもらって、付き合いを申し込まれたんだ。それから時々試合を見に行くようになったから、今日も試合のスケジュールをもらった」

「鈴木君から斉藤さんに声を掛けられるはずがないと思っていたら、そういうことだったのか。それにしても鈴木君が年上で十センチ以上も背が高い女性が趣味だったとは知らなかったわ」

「告られた人がたまたま年上だっただけさ。それに、斉藤さんは百六十九センチだから僕とは六センチしか違わないよ」

「斉藤さんが自分でそう言ったのね。百七十以上ある女子は誰でも百六十九と言うのよ。斉藤さんは百七十四センチぐらいじゃないかな」

「えーっ、そんなはずは……」

「きっと鈴木君は自分より強くて大きい女性に支配されたいという願望があったのよ。願いが叶えられてよかったわね」

「怒るぞ!」

「認めないんだったら言いふらすわよ」

「汚い! 背が高い人が好きだということだけは認めるよ。あんなに胸がキュンとなったのは初めてだから……」

「ごちそうさま」

「ねえ、お願いだから、斉藤さんのことは誰にも言わないで!」

「言いたくてたまらないけど言わないようにしてあげる」

 杏奈は約束を守ってくれたと思うが、どこからともなく僕が玲奈と付き合っているという噂は静かに広がって、そのうちに公然の事実となった。

 

 玲奈は毎日真っ黒になって女子サッカー部を率いていたが夏の大会の準決勝で敗れた日を境に、二年生にキャプテンの座を譲って受験勉強に専念するようになった。

 その頃になると僕は人目をはばからずに廊下で玲奈と立ち話をしたり、たまには中庭で一緒に弁当を食べたりできるようになっていた。逆に、試合を応援に行くことがなくなったので週末にデートする機会は無くなった。

 玲奈はK大学の経済学部に合格した。玲奈が卒業してからは僕が受験勉強に忙しくなり、たまにLINEを交わす程度の関係になった。

 僕がW大学の入試に合格した時にバーミヤンでご馳走してくれたのが玲奈との最後のデートになった。その直後からLINEがつながらなくなり、玲奈の住所に手紙を出しても「あて所に尋ねあたりません」として返送されてきた。

 大学に進学すると精神的に解放されて友達が沢山できた。女子の友達も多く、僕は玲奈と再会したいという気持ちが薄れて行った。玲奈はどん底だった僕に自信を復活させてくれた恩人だと思っていたが、大学生どうしとして付き合う相手としてはちょっと重いのではないかと思った。玲奈と付き合うとすれば結婚を前提とした付き合いになりそうな気がした。杏奈から言われるまでもなく、玲奈は一年上で、十センチ以上背が高くて、体力的にも僕より上だし、リーダーシップと人望がある女性だ。付き合っていた頃はずっと僕が敬語を使っていた。玲奈と結婚すれば、そのままの夫婦関係になるだろう。僕はそれでも幸せかもしれないが、男としてそんな人生でいいのだろうかと思うと腰が引けた。

 それに、玲奈を探し出して「もう一度付き合ってください」と僕の方から言うのは非常に勇気が要る事だ。やはり僕は自分から告れるタイプではない。結局のところ、玲奈に再会しないまま大学生活を送ったのは、それが原因だったのかもしれない。


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