三つの願い(TS小説の表紙画像)

三つの願い
 今日からOLになりなさい

【内容紹介】神さまの手で女性化させられるTS小説。主人公は入社2年目の男性社員。もし神さまが自分の前に現れて三つの願いをする機会を与えられたらどんな願いを言うべきかと考えて答えを用意していた。ある日、ひょんなことから彼の前に神さまが現れ、彼は三つの願いを唱える機会を与えられる。

序章 トホホな願い

 昨夜、祖母、母と僕の三人でテレビのお笑い番組を見ていたら『もし神さまが現れて三つの願いを叶えてやろうと言われたら、何をお願いするか』というネタを売れっ子芸人コンビがやっていた。

 背が高い馬顔の方の男の願いは、きりっとした小顔になって、金持ちの女と結婚することであり、残りのひとつの願いは内緒だと言う。もう一方の小柄で整った顔の男性は、宝くじに当たること、背が高くなることが願いだが、三つ目の願いはこの場では言いにくいとのことだった。

 結局二人は三つの願いをメモ書きして交換するのだが、別れた後でメモを読み、相方あいかたの三つ目の願いが自分と同じだったことを知る。それはコンビを解消したいという願いだった、というのがオチだ。

 そのオチは面白くないと感じたが、二人の願いはとどのつまり、女にモテる外観になりたいということと、金持ちになりたいということだった。人間誰でも同じようなことを考えているのだなと思った。

 一緒にテレビを見ていた祖母に
「おばあちゃんなら三つの願いは何にする?」
と聞いてみた。

「そうねえ、膝の痛みが取れて元気に歩けるようになること、老眼鏡なしに本が読めるようになること、三つ目は、病気せずに長生きしてから、おじいちゃんが待っている天国に行くことかなぁ」

「三つ目の願いは長生きすることと天国に行くことの二つの願いが入っているからダメだよ」
と言うと祖母は「私って欲張りね」と笑った。

 ちっとも欲張りだとは思わなかった。「完全な健康体になりたい」という願いにすれば、祖母の三つの願いのうち、長生きするという点以外は全てカバーできる。三つの願いを口に出す時に最も大事なことは、一つ一つの願いを、できる限り包括的な表現にするということだ。

 母にも同じ質問をした。

「小じわがなくなることと、少しだけ若返ることかな。もし二十歳も若返ったら柚葉たちと親子でいられなくなるから、十年でいいわ。もう一つは、お父さんの給料が上がることよ」

 母も祖母に似て欲のない人だなと思った。二十歳の美女になってIT会社の青年社長と結婚したいと願うこともできるのに、家族との関係を保つことを大事にした三つの願いにこじんまりとまとめてしまった。

 元々「三つの願い」はシャルル・ペロー作の「ばかげた願い」という童話("Les Souhaits ridicules", Charles Perrault, 1697)が起源だそうだ。

 ある日、森の中でジュピターという神さまが貧しい木こりの前に姿を現して、三つの願いを叶えてやろうと言う。木こりはじっくり考えてから願いを言うことにして帰宅するが、暖炉の前で休んでいて「デカいソーセージを焼いて食べたい」という考えが頭に浮かび、つい口に出してしまう。すると一メートル以上もあるソーセージが目の前に現れる。夫が一つ目の願いをつまらないことに使ってしまった事に腹を立てた木こりの女房がイジイジと文句を言うと、木こりは逆ギレして「ソーセージはお前の鼻にでもぶら下げてろ」と悪態をつき、それが二つ目の願いとして実現してしまう。結局三つ目の願いは、女房の鼻からソーセージを剥がし取ることに使うしかなかった、というトホホなお話だ。

 この童話には別なバージョンがあって、ソーセージの代わりにデカいプリンだったりする。ちなみに、スーパーで売っているプリンではなく、本来のプディング(小麦粉、米、ラード、肉、卵、牛乳、バター、果物などの材料を混ぜて、砂糖、塩などの調味料や香辛料で味付けし、煮たり蒸したり焼いたりして固めた料理の総称)なので、いずれにしても木こりにとってはごちそうを意味している。ソーセージにしてもプリンにしても、僕なら自分で奥さんの鼻からナイフで切るとか食いちぎるとかして、三つ目の願いはもっと賢く使うところだ。

 木こりに三つの願いを叶えてやった神さまはジュピターと言って、ローマ神話の天空の神ユピテルの英語名だが、この神さまは最高位の女神ユーノーの夫でありながら、時として女性化・女体化して女神となることもあるそうだ。この童話の別バージョンではジュピターではなく木の霊が木こりの前に表れて三つの願いを叶えてやろうと提案する。

 僕が生きている間に神さまが目の前に現れるような事態になることは期待していないが、木とか、水とか、草花とか、自然の中にみ付く霊が現れる程度のことなら絶対に無いとは言い切れない気がする。万一そうなった場合に備えて、つまらない願いを口にしてしまわないように準備しておくのが賢明だ。

 僕の願いの根幹は、何といっても女性にモテることだ。モテるための要件は三高、すなわち、高身長、高収入、高学歴というのが通説だ。つまり、イケメン男性になること、稼ぐ力のある男になること、いい大学を出ることだ。

 僕の場合は一流半の大学を出てしまったので今更高学歴という条件をクリアするのは困難だが、二十代で年収一千万あれば、僕の学歴でも女性はワンサカ寄って来るだろう。結論として高身長のイケメンになることと、年収一千万円以上になることを二つの願いにするのがいい。三つ目をどんな願いにするかはもう少し考えてみたい。


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