ハンサムすぎる友人
 女装バイト

登場人物のプロフィール

主人公とその親友
 深見 彩夏(僕)162.7cm、18歳 美少年系
 如月 勇斗 183cm 幼稚園以来の親友、18歳の超イケメン

三匹のオバサン(腐女子、BLの世界にハマっている)
 鈴木 誠 167で太目、英会話クラブ部長、4年生、21歳だが外観的には30代
 恩田 千恵子 158で太目、3年生、1浪なので鈴木部長と同年齢
 小椋 友香 158で太目、3年生、1浪なので鈴木部長と同年齢

4人の美少女(全員1年生18歳、如月のファン)
 山野 希子 163.0 彩夏にも好意を寄せている
 福田 美由紀 162.7 ボス格、きつい性格
 桑野 杏奈 162.7 美由紀の友人
 市原 亜美 153.0 希子の友人

4人の女子バスケ部員(彩夏のファン)
 小野寺 勇気 185 女子バスケ部の部長、経済学部4年生、超美形
 船越 真奈美 179 医学部6年生
 笹井 知里 173 経済学部2年生、如月にも好意を寄せている
 大場 友理 170 経済学部2年生、如月にも好意を寄せている

第一章 如月と僕

 如月きさらぎ勇斗ゆうとと僕はホモだ。

 それは、高校三年の時に担任の先生が英語の授業中に突然言い出したことだった。

如月きさらぎ深見ふかみはホモだ」

 退屈な授業を居眠り半分で聞いていた同級生たちが一斉に目を覚ました。あるものは椅子から数センチ尻を浮かせ、あるものは口を開けて如月と僕を交互に見た。静かだった教室が急にざわついた。

 一番仰天したのは如月と僕の二人だった。僕たちは小学校に入る前からの親友で、付き合い始めてから十二年になる。付き合い始めると言っても幼稚園の年長の時にさくら組で一緒だっただけだが、お互いの家を行き来して、一緒に遊び、たまには一緒に寝たり、裸の付き合いをしてきた。でも一貫して清い交際であり、手を握る以上の事をしたことはない。念のために言っておくが、手を握っていたのは小学校低学年までだった。

「君たちはホモというとホモセクシュアルだと思いこむのだろう。情けないことだ。私はホモと聞くとまずホモサピエンスを思い浮かべる。つまり、如月と深見はともに人間なのだ」

「なあんだ。つまんない」
 前列中央の席に座っていた淳子が不満そうに言った。

「如月と深見が人間であることは見ればわかる。私は担任として二人の人間関係をもっと深く理解しているつもりだ。如月と深見はホモフォビックな関係だ」

「なんですか、ホモ・フォビックって?」

「油のように水と混じらない性質のことを疎水性、英語ではハイドロ・フォビックと言うが、そのフォビックと同じ接尾辞だ。同性愛ではないこと、また同性愛を嫌うことをホモ・フォビックと言うんだ。つまり、私が言いたかったことは、如月と深見は小さい時から気心の知れた男同士の親友で、極めて健康的な関係だということだ」

 表情とため息でクラスの男子も女子も全員ががっかりしたことが分かった先生は
「ちなみに親水性のことはハイドロ・フィリックという。フォビックとフィリックの違いを覚えておきなさい」
と言ってその場をごまかした。

 如月と僕はほっと安堵の吐息をついた。眠気が吹き飛んでその後の英語の授業を真面目に聞いた。それにしても冷や汗ものだった。皆の前でホモと呼ばれたら男子なら誰でも動揺する。いくら先生でも最後に「ウソピョーン」と宣言すれば許されるというものではない。自分の退屈な授業の目覚まし対策のために生徒を利用するのはやめて欲しいと思った。僕と如月のように元気度の高い男子だから良かったが、もし女子をネタにして同じような冗談を言って、その子が不登校にでもなったら教師はどう責任を取るのだろうか。

 その時から僕は如月を見ると何となく意識してしまうようになった。鼓動が高まるとか、頬が紅潮するとか、熱い気持ちが湧き上がるとか、そんな気味の悪い意識ではない。担任の教師からホモと言われたことで、僕と一緒にされたくないとか、変に誤解されたくないとか、そんな気持ちが如月の中に芽生えはしないか心配に思ったのだ。

 もうひとつ気がかりだったのは女子の間で流行っているランキングのことだった。如月はスポーツ万能で百八十三センチとクラスで一番背が高く、彫りの深い顔立ちのイケメンだ。勉強も良くできるという点では僕といい勝負だ。学年でも常にイケメン・ランキングでトップ三に入っていると、仲良くしている古田明美から聞いた。明美によると僕は美少女ランキングのトップだそうだ。それは男子だけを対象としたランキングだが、美少年ランキングは別にあって僕は入らないそうだ。美少年は身長百六十五センチ以上という要件があり、身長百六十三センチの僕は対象外らしい。イケメン・ランキングの最上位クラスの如月と美少女ランキング最上位の僕だからこそ、変な言いがかりには神経質になってしまう。

 幸い、英語の教師の戯言たわごとについては、その後誰も冗談のネタに取り上げず、僕と如月の関係を疑う友達もいなかった。如月がどう思っていたのかは分からないが、僕も時が経つとともに気にならなくなり、そのうちに忘れてしまった。

第二章 英会話クラブ

 半年が過ぎ、僕と如月は同じ都内の私立大学に進学した。超一流とは言えないが、親せきや近所から「一流大学に入るなんて流石ね」と言われて「いやあ、それほどでも」と答えても陰で笑われない程度の大学だ。

 如月から英会話クラブに入ろうと誘われた時には二の足を踏んだ。どうせ英会話クラブの勧誘をしていたのが飛び切りの美人だったという程度の理由なのだろう。僕は英語は科目として苦手ではなかったが、クラブ活動に英会話を選ぼうなどと言いだす如月の気が知れなかった。

「英会話部は留学生との討論会を開催したり、相当マジにやっている部だ。俺が入ろうとしているのは英会話部じゃなくて英会話クラブの方だ。英会話クラブは腐女子中心に数名の部員しかいない、殆ど休眠状態に近い部だ」
 如月の説明はどうも歯切れが悪くて分かりにくい。

「腐女子数名で休眠状態の部に、どうして僕たちが入らなきゃならないの?」

「いいか、新たな部を設立するのは部室の確保から始まって、結構やっかいなんだ。だから休眠している部を利用するのさ。そうすれば大学から予算だってもらえる。乗っ取ってから俺たちにとって好ましい部員を集めればいいわけさ。俺と深見が手分けして勧誘すれば可愛い女の子を沢山集められる。私設のキャバクラを持つのと同じだぜ」

 僕はキャバクラには行ったことが無いがキャバクラが楽しい場所であることは知っている。

「でも英会話はちょっと……」

「英語なんてしゃべらなくていいのさ。真面目に英会話を勉強したい女の子には英会話部に移ることを勧めればいい。英会話を口実に遊び心を持った男女が集う場、それが俺たちの英会話クラブだ」

 素晴らしい、さすが如月だ! 
「面白そうだな。僕も入れてくれ」
 僕は如月の大きな手を握り、固い握手を交わした。

 英会話クラブの部室は半地下で、壁面の八個のガラスブロックが明り取りになっている。一階から階段を下りた右側の一番奥の部屋で、わざわざ英会話クラブに行く人以外は誰も見向きもしない場所にあった。入口には、字の下手な男子中学生のような文字で「英会話倶楽部」と書かれた薄汚れた細長い板がブラブラしていた。板の裏側を見ると「都市伝説研究会」と書いてあり、その上に黒いマジックで二重線が引かれていた。

 如月と僕が部室に入ると三人の女性が弁当を食べているところだった。三人とも二十代後半から三十代で全く身なりを構わない雰囲気だった。三人ともカーディガンとウェストがゴムの大きめのスカートというのが共通点だった。三人は如月と僕を見て、ご飯が入ったままの口を大きく開いた。三人の中で一番若そうな女性の顔には恐怖の表情が見えた。

「だ、だ、だ、誰よ、あんたたち」
 最年長と思われるおかっぱ頭の女性が、ケンカ腰で言った。

「俺たち一年生です。英会話クラブに入部したいんですが」
 如月が一歩前に出て言うと、三人の女性は口を閉じて咀嚼を再開した。安堵の空気が三人を包んだことが見て取れた。

「俺、如月勇斗きさらぎゆうとです」
 三人の女性は如月のつま先から頭のてっぺんまで二度視線を走らせた。三人のうち少なくとも二人は如月の風貌を見てかなり満足したことが確かだった。

「僕は深見彩夏ふかみあやかです」
 僕が名乗ると、最年長の女性が
「あやか? どんな字を書くの?」
と聞いたので
「色彩の彩に夏です」
と答えると
「なあんだ。顔は女なのに僕と言うから男かと思ったら、やっぱり女子だったのか。俎板まないただから紛らわしい」
と言われた。

 女の子のように可愛い顔と言われることはよくあるが、面と向かって顔が女だと言われたのは初めてだった。声は低くはないが男と分かるし、胸を見れば女でないことは一目瞭然なのに本当に失礼な人だ。
 クソババアと言いたいのを我慢して
「僕はれっきとした男性です」
と言ったところ、
「でも彩夏は女の名前じゃない。君の本名は何?」
と言われた。僕は名前のことでいびられることには慣れていたが、その言い方は滅多に遭遇しないほど失礼だと思った。普段ならもう少し気の利いた反論をする僕も
「彩夏とは夏の美しさを意味する言葉です。男性にも使う名前です」
とぶっきらぼうに断言した。

「彩という文字の辺は木の実を表す象形文字よ。つくりの三本の斜め線は女性の長く美しい髪の毛を表す象形文字。つまり、彩とは非常に女性的な文字なの。それに、彩夏の音はカナで書いてもアルファベットで書いても非常に女性的よね。君、絢香という名前の歌手を知ってる?」

「勿論、知ってますよ」

「彼女、男じゃないわよね?とても女性的な情感を表現できる歌手だと思うわ」

「そりゃそうですけど……」

「あやか、まりや、かな、あい。良い歌手には女性らしい名前が付いているわね」

 それに対して反論するのは僕には無理だった。知性と教養を備えた手ごわい大人の女性だと思った。

「私は英会話クラブの部長で四年生の鈴木マコトよ」

「マコトって真実の真に楽器の琴ですか?」
と聞くと、俯いて
「誠実の誠だけど」
と恥ずかしそうに答えたので思わず「プッ」と吹き出してしまった。彩を女の文字と主張した裏には自分の名前から来るコンプレックスがあったのに違いない。

「失礼ですが何浪ですか?」
 名前のことで仕返しするのは大人げないので、今度は年齢で攻めることにした。

「現役よ。それも三月生まれ」
 しかめっ面をして部長が答えた。

 このオバサンが二十一歳とは……。僕たちは唖然とした。

「三年生の恩田千恵子おんだちえこよ」
「私も三年生で小椋友香おぐらともか。ついでだけど私たち二人は一浪だから、この三人は同い年なの」
と残りの二人の女性の自己紹介を聞いて、全員が二十一歳であることが判明した。

 僕たちは井の中の蛙だったことを実感した。やはり大学という所は凄い。三人の平均年齢は軽く三十を超えていると思ったのにピチピチの二十一歳なのだ。もしかすると、これが腐女子という生き物なのだろうか。腐女子についてはネットで見て知っていたし、高校にも「私は腐女子よ」と言っている同級生が居た。でもこの三人の足元にも及ばない。大学に来てホンモノに遭遇することが出来たのだ。

「言っとくけど、本気で英会話を学びたければ英会話クラブじゃなくて英会話部に行きなさい。ここは英会話活動よりは部員の交流を主眼にしたクラブだから」

「それは僕たちの希望にピタリです。別にボーイズラブ小説を読まなくても入部できますよね?」
 如月が聞くと、三人の女性はテーブルに散らばったボーイズラブ小説の本を裏返しにした。

「勿論よ」

「じゃあ、入部させてください」

「いいわ、ただひとつだけ言っておく。いくらあなたたちがボーイズラブコミックから抜け出してきたばかりのようなイケメンとカワイイ系の男子だと言っても、私たち三人はあなたたちに全く興味は無いから」

「了解です!」
 如月と僕は声を揃えて答え、晴れて英会話クラブの部員になった。


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