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脱出王の鍵

男女入れ替わりタイムスリップロマンス

原作:The Escape Artist's Secret

A Houdini Body-Swap Fantasy

by Yulia Yu. Sakurazawa

まえがき

これは、世界最高の脱出アーティスト、ハリー・フーディーニの「伝説」をめぐる、時空を超えた物語です。

アメリカやイギリスにおいて、フーディーニの名は単なる偉大な奇術師というだけでなく「不可能からの脱出」や「束縛を打ち破る天才」の代名詞として、世代を超えて広く知られています。彼が考案した命がけの脱出芸は、現在も「マジックの歴史における象徴」として語り継がれています。

本書の主人公、ジェマ・ウィンターズは、現代に生きる女性脱出アーティストです。彼女は、フーディーニの最も有名な演目「チャイニーズ水槽脱出術(ウォーター・トーチャー・セル)」を継承し、偉大な「ゴースト」の影を追い続けています。

そんなジェマが、水槽での決死の脱出劇のさなか、時を超えた奇跡(あるいは呪い)によって、1915年のハリー・フーディーニ本人と、精神と肉体が入れ替わってしまうことから物語は幕を開けます。過去に取り残されたジェマは、憧れの伝説の身体で生きることを強いられ、未来に放り出されたフーディーニは、見知らぬ女性の身体と現代のルールに戸惑いながら、「元の時代への脱出」を試みます。

二人の魂を繋ぐのは、フーディーニが過去に遺した黄銅の鍵と、100年の時を超えた奇術師の絆です。

これは、水槽や手錠からの脱出だけでなく、過去からの束縛や他人に与えられた人生という見えない檻からの「真の脱出」を描いた物語です。

「脱出王」の伝説そのものが「鍵」となるこの壮大な奇術の世界へ、ようこそ。

第一章 亡霊の檻

2015年 アトランティックシティー

冷たい水が、抱きしめるように私を包み込む。頭上で蓋が重々しく閉ざされ、二つの錠がカチリと音を立てる。その音は、私が今しがた後にした世界への、くぐもった句読点のようだった。

厚いガラスの向こう、観客たちの顔が奇妙な仮面のように歪んでいる。その一部は魚だ。静かに、きらめきながら、私の周りをゆったりと旋回する、黒曜石のビーズのような目をした証人たち。これまで数えきれないほどの舞台に立ってきたけれど、この水族館という場所は、私が「チャイニーズ水槽脱出術(ウォーター・トーチャー・セル)」を演じるには、あまりにも奇妙な舞台だった。

スポットライトが私を捉える。突き刺すような白い光が、水を青白く輝かせる。手が震える。もう千五百回も繰り返してきたのだから、パニックなど旧知の友人のようであってもいいはずなのに、それはいつも招かれざる見知らぬ客としてやってくる。落ち着いて、ジェマ。ビーチを想像するの。 そのマントラは、長年の使用で角が取れ、丸くなった心の鎮静剤だ。波が岸に打ち寄せる。広大な青い空。つま先の間をすり抜ける砂。

よし、行こう。

水着の裏地に縫い付けた小さな硬いものが肌に当たる。私のお守り。何年も前にマジックのオークションの埃っぽい片隅で手に入れた、古びた真鍮の鍵。フーディーニ自身のものだったという触れ込みは信じていなかったけれど、それでも大切にしていた。それは神話の一部であり、私が今まさにその人生を生きようとしている亡霊との、ささやかな繋がりだった。蓋が閉められる前、私はそれを固く握りしめ、冷たい金属に必死の願いを囁いた。フーディーニのように強くなりたい。この状況から、逃げ出したい、と。

この状況。それは、この水槽だけを指しているのではなかった。

よし、始めよう。

アシスタントたちが水槽から離れていく。その姿が、視界の端でゆらりと揺れる。私はヘアピンをシニヨンから引き抜き、冷たい金属が頭皮に触れる。アドレナリンで不器用になった指が、最初の手錠の鍵穴を探る。見つけた。 ピックが滑り込み、ピンとの繊細なダンスが始まる。もっと落ち着いた、安定した手が必要だ。

私の夫、ジョシュの影が水槽に近づいてくる。ガラス越しに歪んでいても、彼のれた肩の動きはすぐに分かった。彼は腕時計のガラスを神経質に叩いている。遅いぞ。 ガラスに手のひらを押し付け、中指を一本立ててやりたい衝動に駆られるが、今は水だけがすべてだ。フーディーニの亡霊の檻の中、全能なる水が。最初の手錠が外れる。ささやかで、甘美な勝利。あと五つ。

彼の顔が、水を通して歪んだ怪物のように見えた瞬間、意識が数時間前に引き戻される。

気短な夫の時限爆弾を爆発させたのは、私のミスだったかもしれない。 彼の顔が深い赤に染まり、私の方へ向き直る。「新しいスーツケースがいくらするか知ってるか?知るわけないよな」爆弾のタイマーがゼロになった。「なんて素晴らしいタイミングなんだ、ジェマ!最高のショーの直前にな!おめでとう!」

彼はバルコニーへ飛び出した。私は後を追う。罪悪感が、胸に物理的な重りとなってのしかかっていた。「ごめんなさい、ジョシュ」彼の背中に囁いた。

記憶が溶け、水槽の冷たさが骨の髄まで染み込んでくる。秒針が時を刻む音が聞こえるようだ。ピックが二つ目の手錠を見つける。あと四つ。私の指が次の鍵穴をなぞると、裏切り者の心が別の映像を映し出す。マックスの舌が、私の乳首をなぞる様を。最悪だ。すべてがぼやけて、雨の中に置き忘れられた水彩画のようだ。傷つき、捕らえられ、見世物にされている魚になった気分。

昨日の朝、別のホテルの部屋で、マックスに痛みを消し去ってくれるよう頼んだ。その時、ドアが大きく開き、ジョシュがドアの前に立っていたのだった。

ガラスの破片のように鋭いパニックの衝撃が、私を檻の中へと引き戻す。もう三分以上もここにいる。太ももが痙攣し始めた。椰子の木、魚、太陽。落ち着いて、ジェマ。戦い続けて。

しかし、記憶が私の集中力を奪っていた。指は不器用で、感覚がない。ピックが、私の手から滑り落ちた。

私は恐怖に目を見開いたまま、それが青い深淵へと沈んでいく小さな銀色の魚のように、くるくると舞い落ちるのを見つめていた。探そうとするが、どこにも見当たらない。

見つからない。見つからない!

パニックは今や生き物となり、私の喉を掻きむしる。肺が燃えている。ジョシュがガラスを叩き、三本の指を立てる。三十秒。彼には分かっているのだ。私が時間を使い果たし、選択肢を失ったことを。彼の青い瞳が、水を通して私の目と合う。そこには何も映っていなかった。心配も、恐怖も。ただ、台無しになったショーと死んだ妻を天秤にかける男の、冷たく平坦な計算だけが。彼は水槽から一歩、後ずさった。

この人は、私を死なせるつもりだ。

胸の奥で原始的な叫び声が生まれるが、泡となって水面に昇るだけだ。それは必死の祈りのようだった。私はガラスを引っ掻く。爪が、牢獄の壁に虚しく擦れる音を立てる。水族館の照明がぼやけ始め、観客の顔が魚のきらめく身体に溶けていく。私の世界が、痛みを伴う一点の光へと狭まっていく。そして、その光さえもが薄れ始める。

私の手は、もうそこにはないピックを探して、硬く冷たい真鍮の鍵の感触を捉えた。

私の世界は、静かで、押し寄せる暗闇へと溶けていった。

第二章 ゼウスを気取る男

昨日

ゼウスという名の雄牛がエウロパを攫い、海を渡って彼女に新しい人生を与えたという神話がある。その人生は、玉座であると同時に、牢獄でもあった。私にとって、それは神話ではなかった。昨日の出来事だった。

ホテルの部屋の空気は真空のようだった。世界からすべての音を吸い取ってしまったかのようだった。ジョシュは「雄牛」について――マックスとのことについて――私たちを見つけて以来、一言も口にしていない。その代わり、彼は静かで強迫的な儀式にその怒りを注ぎ込んでいた。彼は私たちの機材ケースの前にひざまずき、その中身をベッドカバーの上に広げていた。それはまるで、金属でできた獣の骨のようだった。彼は錠を、手錠を、鎖を、一つ一つ取り出しては検分していた。それは私がよく知る点検の儀式であり、雷鳴の前の静けさだった。

彼はダービー手錠の暗い鍵穴を覗き込んでいたが、見ているのがピンではないことは分かっていた。彼は昨日のことを、マックスの顔を、見ているのだ。私たちは互いに怒鳴り、物を投げつけ、毒を吐き出すべきだった。けれど、この沈黙はもっと深い種類の暴力だった。どちらかが溺れるまで、水をかき混ぜ続けるような。

「ねえ」静寂の中に、か細い糸のような声で言ってみた。「そんなに睨んでたら、いつか睨み返されるわよ」

一瞬、彼は反応しなかった。鋼鉄を握る指の関節が白くなっていた。やがて、彼の顔が深い赤に染まり、私の方へ向き直る。「新しいトラベルケースがいくらするか、お前に分かるか?分かるわけないよな」私の頭の中で静かに時を刻んでいた爆弾のタイマーが、ゼロになった。「なんて素晴らしいタイミングなんだ、ジェマ!最高のショーの直前にな!おめでとう!」

彼は答えを待たずにバルコニーへ飛び出した。明るく、無関心な空を背景に、怒りのシルエットが浮かび上がる。私は一分ほど待ち、胸の鼓動が肋骨を打つのを感じながら、後を追った。罪悪感と恐怖が入り混じった、飲み慣れた毒のような感情が込み上げてくる。

「ごめんなさい、ジョシュ」彼の背中に囁いた。塩気を含んだ風が、その言葉を攫っていく。

彼は振り返る。その青い瞳は眼下に広がる海のように冷たく、広大だった。「お前は一体何に対して謝ってるんだ?」彼の声は、人を欺くように穏やかだった。「俺を裏切ったことか?それとも、バレたことか?」

「両方よ」自分でも驚くほど正直な答えだった。私は階下のホテルのプールを見下ろす。そこには、幸せそうで、何も知らない家族連れがひしめいていた。彼らの笑い声が、異質で遠いもののように聞こえてくる。この悪夢のせいで、あと数時間後には死と向き合う予定であることさえ忘れそうになっていた。

「両方、か」彼は残酷な笑みを浮かべ、繰り返した。彼は手すりに寄りかかる。まるで、自らの領地を見下ろす王のようだった。「これが、お前とあいつのこと、安っぽいホテルの一室での火遊びのことだと思ってるのか?」彼は短く、乾いた笑い声を立てた。「これは敬意の問題だ。ブランドの問題だ。俺のブランドだ。俺がゼロから築き上げた」

彼は一歩近づき、私の領域を侵犯する。彼の影が私の上に落ちた。「高校時代を覚えてるか、ジェマ?みすぼらしい靴と古本を抱えて、昼食代のためにカード手品を見せていたあの女の子を。哀れだったな」

その言葉は石つぶてとなり、一つ一つが的確に、今もまだ痣になる場所へと落ちていく。

「俺はお前を見ていた」彼は低く、催眠術のような声で続けた。「俺はあの輝きを見抜いた。他の奴らはただの貧乏なガキとしか見ていなかったが、俺には正真正銘の金鉱に見えた。俺はお前に歩み寄り、取引を持ちかけた。あの惨めな食堂からお前を連れ出し、本物の舞台に立たせてやった。最初はロープを、次に鎖を、そしてあの亡霊の檻そのものを与えた。俺がお前を泥の中から拾い上げ、磨き上げ、輝かせてやったんだ」

これは彼のお気に入りの物語だった。彼がゼウスとなり、定命の者を無名の中から選び出すために山から降りてくる物語。彼が酔った勢いで何年も前に白状した、五十ドルの賭けの話は省略されていたけれど。「不細工なアヒルの子ジェマ」を、金になるものに変えられるかどうかという賭け。彼は賭けに勝ち、私を勝ち取った。そして、そのことを決して私に忘れさせなかった。

「この人生を与えたのは俺だ」彼は広大な街と海と空を指し示しながら、吐き捨てるように言った。「その恩を、アシスタントに股を開くことで返すのか?玉座を築いた男を裏切るな。ゼウスを裏切るな」

彼はもう叫んではいなかった。こちらのほうが、もっとひどかった。これは、宇宙の法則を述べる神の、冷たく絶対的な確信だった。彼が私に築いた檻は、あの水槽ではなかった。この物語そのものだった。彼が貢物として要求する十三年間の感謝であり、彼なしでは私など何者でもないのだと絶えず思い出させるためのものだった。

「彼はただの若者よ、ジョシュ」私の声は震えていた。「何の意味もないわ」

「彼は俺の従業員だ」ジョシュは訂正し、私の目を射抜いた。「そしてお前は俺の妻だ。俺のパートナー。俺の最高傑作だ。今夜、お前はあの水槽に入り、ショーを演じる。微笑み、手を振り、観客に魔法を信じさせるんだ。そして二度と、絶対に、俺に恥をかかせるな。分かったか?」

私は言葉を発することができなかった。ただ頷くだけだった。視線は階下のプールへ、怒れる神々と共に山の上で暮らすことのない、普通の人々の世界へと落ちていく。冷たく、慣れ親しんだ諦めが、私を洗い流した。彼は正しかった。彼はもう、私の身体の一部だった――錠が開いている時でさえ、私を縛る鎖だった。

第三章 もうひとつの脱出

昨日

部屋には彼の匂いが満ちていた。塩と肌、それからホテルの石鹸の、個性のない清潔な香り。窓から差し込む陽光が、乱れたシーツの上に容赦のない一本の筋を描いている。私はそのシーツに絡まりながら横たわり、魂にまでは届かない解放感に、身体が微かに震えていた。

マックスの方へ向き直り、指で彼の顎のラインをなぞる。彼の肌は、深く豊かなチョコレートの色をしていた。私の白い肌との対比が、ひどく美しいと思った。彼はとても固く、現実的だった。しばらくの間、その現実を借りていたかった。

「痛くして」と囁いた。それは、慣れ親しんだ、恥ずべき祈りの言葉だった。「髪を引っ張って。ひどいことを言って。お願いだから、何か別のことを感じさせて」

彼は私の手を掴み、親指で指の関節を撫でた。いつもは屈託のない笑みを浮かべている彼の瞳が、深く、優しい悲しみに曇っていた。「こんな風にはだめだ、ジェマ」彼の声は、低く響いた。「セックスを、俺を、そういうことに使わないで」

彼は一分間、抵抗した。私たちの間に横たわる空間で、静かな戦いが繰り広げられた。けれど彼は私の目の中に宿る絶望を、私がすでにどこかへ漂い始めているのを、見て取ったのだろう。彼は諦めた。私を椅子に押し倒すと、その硬い背もたれが肋骨に食い込む鋭い痛みが、鈍い人生の交響曲の中の、歓迎すべき鋭い音符となった。

その後、私たちはベッドに横たわっていた。再び訪れた沈黙は、今度はもっと重かった。

「ジェマ」彼が沈黙を破った。「話がある。ちゃんとした話を」

「話してるじゃない」枕に顔を埋めたまま、私は呟いた。

「いや、違う」彼はナイトスタンドからノートパソコンを手に取った。「調べてみたんだ」

私が肘をついて身体を起こすと、彼はパソコンの画面をこちらに向けた。開かれたいくつものタブが、私がまだ直視する覚悟のできていない希望の星座のように、画面を埋め尽くしていた。

ニューヨークで腕利きの、アーティストを鉄壁の契約から解放することで有名な女性エンターテインメント弁護士のウェブサイト。ユニークな舞台芸術を専門とする、ロサンゼルスの小さなタレント事務所のポートフォリオ。そして、ブックマークされた記事。『連鎖を断ち切る:経済的支配を振るうパートナーから離れる方法』。

息が喉の奥で詰まった。これはただの枕元での会話じゃない。計画だ。もうひとつの、違う種類の脱出のための、設計図だった。

「マックス、これは何?」

「出口だよ」彼の声は真剣で、切迫していた。「この弁護士は最高だ。見込み客のふりをして事務所に電話してみた。相談に乗ってくれるって。こっちの事務所は?新しい才能を探してる。匿名のタレコミで、君のラスベガスのショーのリンクを送っておいたんだ。興味を持ってるよ、ジェマ。すごく」

彼は私を見つめ、その目は懇願していた。「こんな風に生きる必要はないんだ。魔法は君自身だ。彼はただの檻だよ」

希望という名の小さな火花を消し去るように、冷たい恐怖の波が押し寄せてきた。逃げ出すことを夢見ることと、暗闇の中でそれについて囁くことと、こうしてはっきりと示された脱出経路を見ることとは、全く別のことだった。それは、恐ろしく未知の荒野へと続く、明るく照らされた道だった。

「結婚して十三年よ」その言葉は、灰のような味がした。「彼がろくでなしなのは分かってる。でも、もう…身体の一部みたいなものなの。すべてを築いたのは彼なんだから」

「彼は牢獄を築いて、それを宮殿だと言っただけだ!」マックスの声が、私が受けるに値する苛立ちを帯びて高くなる。「君の才能を築いたのは彼じゃない、ジェマ。それはずっと君自身のものだった。彼はただ、それを金にする方法を見つけただけだ。寄生虫だよ」

彼はため息をつき、手で顔を覆った。「怖いのは分かる。でも、君は俺が知る中で一番強い人間だ。毎晩、水で満たされた水槽に閉じ込められてるんだぞ。君ならできる」

答えられなかった。彼の言葉の真実と、ここに留まれ、感謝しろ、たとえ鞭を振るう手であっても、餌をくれるその手を噛むなと私に叫ぶ、十三年間の刷り込みとが、心の中で戦っていた。私の悲しみ、恐怖、混乱――そのすべてが、空虚で必死な欲望へとねじ曲がっていく。弁護士や契約のことなんて考えたくなかった。ただ、消えてしまいたかった。

私は彼に手を伸ばし、ベッドへと引き戻した。彼の耳たぶを舐め、手が彼の背中の筋肉をなぞる。彼が提示する未来に溺れてしまう前に、彼の確かな現実の中に自分を碇泊させ、この瞬間に身を委ねる必要があった。

彼は応え、その苛立ちも情熱へと溶けていった。彼が私の脚の間に舌を突き立てると、純粋な快楽が波のように押し寄せ、頭の中の恐ろしい声を溺れさせてくれた。それは歓迎すべき潮流だった。

私の頭がベッドの端から垂れ下がり、部屋がその軸を中心に傾いていく。天井のランプが床から生えているように見える。世界が、逆さまだった。

その時だった。

確かに鍵をかけたはずのホテルの部屋のドアが、音もなく内側へと動いていた。そして、私が叫び声を上げるより先に、何が起きているのかを理解するより先に、ドアは大きく開け放たれ、戸口に立つジョシュの姿を映し出した。彼の顔は、信じられないという表情から、すでに何か恐ろしいものへと硬化し始めていた。彼は逆さまだった。暗い神が、堕ちた天から降臨するように。その目は、まっすぐに私たちを射抜いていた。

第四章 異なる体での覚醒

2015年 アトランティックシティー

最初の感覚は、視覚ではなかった。聴覚だった。骨の髄まで響くような、低く、リズミカルな雷鳴。私が知るどんなオーケストラにも属さない、悪魔的なビート。次に光が来た。ガス灯の暖かく揺らめく黄色でも、白熱電球の安定した唸りでもない。網膜を突き刺すような、殺菌された青白い閃光だった。見えない装置で増幅された声が、目を開けろと命じている。

「よし、ジェマ。全部吐き出すんだ」

荒々しく、しつこい手が私の肩を揺さぶる。私はそれに従い、世界は信じがたいほど鮮明な悪夢としてその姿を現した。私はガラスの石棺の縁に腰掛けていた。それは私のものと瓜二つだが、より粗野で、けばけばしい。目の前には一人の男が立っていた。嵐の前の冬空のような色の目をした、金髪の巨人。その顔は怒りの仮面だった。

私の心は、論理と幻想の解剖のために築かれた機械であり、その仕事を始めた。これはトリックだ。ライバルの手の込んだ悪戯か。あるいは、私は薬を盛られ、これはどこか新しい、進歩した精神病院で上演されている幻覚なのだ。私は詳細を記録していく。洞窟のような部屋の壁には、さらに多くのガラスが張られ、その向こうでは巨大で静かな魚たちが亡霊のように滑空している。私たちの周りでは、人々が小さな、点滅する装置を手にしている。その一つ目の暗い目は、未来的なピストルさながらに私に向けられていた。

「私は死んだのか?」と尋ねると、私の声は慣れ親しんだものとは違う高いピッチで響いた。金髪の男の顔が歪む。

「いや、死んでない。だが、ショーを台無しにしたな。明日の朝にはニュースで持ちきりだ。来月のショーの予約も取れない。自殺未遂の脱出奇術師なんて、誰も自分のビジネスに関わらせたくないからな」

彼の言葉は英語だったが、その抑揚は奇妙で、スラングは耳慣れないものだった。ショーを台無しに? 悪魔的なビートがさらに大きく脈打ち、私はそれがこの人々が音楽と呼ぶものであることに気づいた。観客、顔の海が、大きな音を立て、リズミカルに手を叩いている。

「ベスはどこだ?」と私は要求した。

「誰だ?」巨人は嫌悪に満ちた表情で首を振った。「ほら、奴らに手を振れ」彼はそう呟き、その指が痣になるほどの力で私の腕に食い込んだ。私はパフォーマーの反射で、自動的に手を上げた。舞台の近くにいた人物の一人が、レンズと金属でできた、より大きな黒い箱を肩に担ぎ上げた。彼はそれをまっすぐに私に向けた。

「撃つつもりだ!」私は叫び、銃声と衝撃に身構えた。しかし、弾丸の代わりに、ただ静かで、目が眩むような閃光があっただけだった。

「ああ、もういい加減にしろ、ジェマ、しっかりしろ!」金髪の男はそう吐き捨て、私の腕を掴んで梯子の方へ引きずっていった。私の足は奇妙に小さく感じられ、重心が全くおかしい。私はつまずき、胴体に巻かれていたタオルが一瞬、はだけた。

私は下を見た。その光景はあまりにも根本的に間違っており、解剖学的に不可能だったため、私の脳は一瞬、それを処理することを拒否した。二つの柔らかく、青白い肉の塊が、ピンク色の先端を伴って、私の胸の上に乗っていた。

「こ、これは乳房か!」私は叫んだ。その声は喉から引き裂かれるように、高く、甲高く響いた。世界が傾いた。これは悪戯ではない。自然の法則への冒涜だ。私は金髪の巨人に飛びかかった。私の小さな手が、彼の太い首を掴む。彼がこの狂気の設計者なのだ。肌の黒い、より若い男が、警戒の表情を浮かべて私たちの方へ駆け寄ってきた。彼は私の指を巨人の喉から引き剥がした。

「彼女は錯乱している」巨人は首をさすりながら、詰まった声で言った。

「やめろ、ジョシュ」肌の黒い男が囁いた。「騒ぎを起こすな」

「ああ、まだ終わってないぞ、友よ!」私は巨人――ジョシュ――に向かって唸った。私の声は、自分自身の声の哀れな模倣だった。肌の黒い男は私を舞台から遠ざけ、殺菌された、容赦のない白で塗られた廊下へと導いた。

彼が私を連れて行った部屋は医務室で、赤い制服を着た二人の人物がいた。彼らは瓶に取り付けられた透明なマスク、何らかの麻酔装置のようなものを持って私に近づいてきた。私の心は叫んだ。彼らは私にさらなる実験を施すつもりだ。

「もう二度と私に指一本触れさせるものか、このサイコども!」私は叫び、アドレナリンの奔流に煽られた私の身体は、反応した。私は逃げ出した。

私は緑色の標識、「EXIT」という言葉の隣に描かれた、走る小さな男の絵文字を追った。脱出のための、普遍的なシンボル。最後のドアを突き破ると、私を迎えたのは自由ではなく、新しい種類の怪物だった。道を塞ぐ彼らの一団は、皆、針金と網でできた黒い笏を私の顔に向けていた。

「ウィンターズさん、インタビューをお願いします!」そのうちの一人が叫び、彼の笏を私の口元に突き出した。それは人の声を盗むために設計された武器だった。

「インタビューならしてやるが、それがお前の最後のものになるぞ!」私は怒鳴り、その針金を掴んで彼の首に巻きつけた。一団は押し寄せたが、私はすでに動いていた。私はクロスカントリーのチャンピオンランナーであり、この奇妙で弱い身体は、まだその速さの亡霊を宿していた。私は夜の中へと疾走した。

私を迎えた街は、H・G・ウェルズの熱に浮かされた夢から抜け出たような光景だった。ガラスと鋼鉄の塔が空を掻きむしり、その表面はざわめく色とりどりの光で生きていた。下では、磨かれた金属とガラスでできた馬のいない馬車が、黒い舗装の川の上を走り、そのヘッドライトは白と赤の奔流だった。

「乗ってくかい、お嬢さん?」

アジア系の男が、彼の黄色い馬車を私の隣に停めた。声泥棒の一団が迫ってきている。

「地球へ行ってくれるなら」私は息を切らしながら言った。

彼は笑った。「金さえ払ってくれれば、どこへでも連れて行ってやるよ」

私はこの異質な身体に張り付いた、濡れて薄っぺらな水着に目をやった。「金は持っていない」

彼の目は驚きに見開かれた。「おい、あんたを知ってるぞ!奇術師のジェマ・ウィンターズじゃないか!」彼は近づいてくる一団に目をやった。「乗れよ!急いでるみたいじゃないか!」

他に選択肢はなく、私はその機械に身を投げた。ドアが重々しい音を立てて閉まり、窓を叩く一団の音を遮断した。

「どこへ?」と彼は尋ねた。

「どこか隠れられる場所へ」

「ホテルか?」

「とにかく、アクセルを踏んでくれ!」

「はいよ、マダム!」エンジンが唸り、機械はロケットのように前へと飛び出し、私を座席に押し付けた。私たちは信じがたい幾何学模様の通りを縦横に走り、やがて機械は速度を落として停止した。

「なぜ止まった?」と私は要求した。

「赤信号だよ」彼は、それが世界で最も明白なことであるかのように言った。彼は小さな鏡を通して私を覗き込んだ。「一杯ひっかけたいって顔してるな」

「一杯どころじゃない」

「ホテルの住所を教えてくれれば、そこまで送るよ」

私はこの異質な心の風景の中から、記憶を、通りの名前を、何かを探した。それは完全に空白だった。「どこだか、全く分からない」

彼はため息をつき、小さな装置を耳に当てて、それに向かって話し始めた。彼は見えない存在と交信している。しばらくして、私たちは再び動き出した。建物の側面に映る動画が私の目を引いた。炎で書かれた文字。「2015年:アトランティックシティ、幸運の年」

2015年。

その数字は死刑宣告だった。あり得ないことの、確証だった。私は違う大陸にいるのではない。違う世紀にいるのだ。

運転手は巨大なホテルの前に停まった。それは私が今まで見たどんな建物よりも高い塔だった。彼は座席で振り返り、私をじっと、詮索するように見つめた。

「マスコミの目を避けるために、俺の青いレインコートを貸してやるよ」彼はそう言って、薄っぺらなプラスチックの衣服を座席越しに手渡した。「あのパパラッチどもは腹を空かせてるからな」

コートは私の膝までを覆った。「ありがとう、ミスター」私はそう言って、彼の手を握った。

「どういたしまして、ウィンターズさん」彼は奇妙な笑みを浮かべて答えた。「男みたいな握手をするんだね」

第五章 鏡の向こう側

1915年 ニューヨーク

最初の呼吸は、裏切りだった。それは私のものじゃない喉を突き破り、見知らぬ周波数で震える声帯を擦り抜けていく。咳をすると、深く、しゃがれた犬の吠えるような音が漏れた。錆と古い帆布の味がする水が、私の唇から冷たく濡れた床板へとこぼれ落ちる。

「ハリー、あなた!」

その声は、忘れかけていた夢の旋律のようだった。女の顔が、私の真上に浮かんでいる。それは…蝋燭だろうか?ガス灯だろうか?その薄暗く揺らめく光に縁取られている。彼女はセピア色の写真とラベンダーの香水でできたような女性で、その優しい茶色の瞳は、私の恐怖を映し出すように見開かれていたが、その恐怖は、私には理解できない理由で、私自身に向けられていた。

「ハリー、あなた」彼女は再び、震える声で言った。「戻ってきたのね」

身体が、深く、慣れない痛みで軋む。肩が、まるで関節から引き抜かれたかのようだ。身体を起こそうとするが、腕は重く、異質なものに感じられた。濡れた床板に、奇妙な摩擦を感じる――毛だ。私自身の脚の滑らかな肌ではなく、粗く、黒い毛の塊。視線が、あるべきものより広く、厚く、平らな胴体を下っていく。

これは、私の身体じゃないわ!

その思考は叫び声ではなく、私の心の中心に落ちた、冷たく静かな一滴の毒だった。

「私の身体じゃない」と囁くと、その声は砂利とウィスキーのようだった。それはあまりに大きく、深い胸腔の中で響いた。

「あなたの身体よ」女はそう言って、心配そうに眉をひそめた。彼女は私が起き上がるのを手伝ってくれる。その手触りは、安らぎであると同時に、深い混乱の源でもあった。シャツ姿の男二人が、私の足元で忙しなく、重い鉄の足枷を外している。その足枷は滑車装置に繋がっていた。それは、私の水槽の古びた木と鉄のバージョンである拷問装置だった。濡れた拘束衣が、その隣にぐったりと山積みになっている。

私の心は、ピースを繋ぎ合わせようと必死だった。溺れること、暗闇…そして、これ。まるで、博物館の展示物の中で目覚めたかのようだ。

女は私の腕を、ぱりっとしたシャツに通した。「しっかりして!」彼女の優しい口調が、切迫感を帯びて硬くなる。「人々は、フーディーニが無事な姿を見たいのよ」

フーディーニ。 その名前は、私の記憶の中ではなく、魂の中で鐘を鳴らした。フーディーニは私のアイドルであり、私の亡霊であり、私がこの仕事をする理由そのものだった。

彼女は私を人形のように着飾らせる。その動きは力強く、確かだった。私はあまりに弱く、この悪夢の霧の中で道を見失い、抵抗することができなかった。しかし、舞台裏の壁に立てかけられた姿見に自分の姿が映った瞬間、その霧は晴れ、代わりに、剥き出しの、目が眩むような恐怖が訪れた。

一人の男が、私を見つめ返していた。

彼は背は低いが、力強く鍛え上げられており、深く窪んだ、突き刺すような緑色の瞳は、私自身の恐怖で見開かれていた。彼の黒髪は水でなでつけられ、顔は青白く、無精髭が生えている。私が手を振ると、彼も手を振る。私がよろめきながら一歩後ずさると、彼はその動きを完璧に模倣する。それはまるで、別の男の人生を窓越しに覗き込み、その窓が鏡であり、自分がその男であることに気づくような感覚だった。

「私は死んだの?」私は鏡像に尋ね、男の唇が私の言葉を形作る。

女――ベス、と私の心が一冊の本からその名前を引っ張り出す――が私の腕を掴んだ。「ベス」男の一人が彼女に言った。「そんなに待たせるわけにはいかない」

「ええ、そうね」彼女は頷き、私を無理やり彼女の方へと向かせた。その顔が、私の顔のすぐそばにある。「あなたはハリー・フーディーニ」彼女は低く、強い声で言った。「私はあなたの妻。そして、もし今すぐ男らしく振る舞わないなら、神に誓って、あなたのお尻を蹴り飛ばしてやるわ」

私が抗議するより先に、私が、私はジェマという名の、違う世界から来た女なのだと叫ぶより先に、赤いベルベットのカーテンが上がった。向こう側から轟音が、音の波が、物理的に私を押し戻すように押し寄せてきた。何百人もの人々が立ち上がり、その顔を上げ、一つの名前を唱えている。

「フーディーニ!フーディーニ!フーディーディーニ!」

ベスが私を、目が眩むような舞台照明の閃光の中へと押し出した。「深くお辞儀をして!」と彼女は命じた。

私の身体は、歴史そのものによって糸を引かれる操り人形のように、勝手に動いた。私は一度、二度とお辞儀をし、拍手が私を洗い流した。やがてカーテンが下り、繋がりが断ち切られると、私の脚から力が抜けた。私は埃っぽい舞台の上に、膝から崩れ落ちた。

この身体の現実が、私にのしかかってくる。私の手は広く、指は短く、節くれだった静脈が皮膚の下を走っている。そして、脚の間には異質な重みがあった。太ももに当たる、柔らかく、重い存在。私はこの皮膚から這い出したい、この肉を剥ぎ取って、下にいる自分自身を見つけ出したいと、必死に思った。

「どこか別の場所へ連れて行ってくれないか?」私はベスに、ひび割れた声で尋ねた。「人々のいないところへ?」

彼女は私を見つめた。その表情は、憐れみと疑念が入り混じっていた。「本当に病院へ行かなくていいの?」

「いいえ、大丈夫よ。ただ…」言葉が見つからなかった。私は間違った身体にいる。間違った世紀にいる。 「少し、混乱しているだけ」

彼女は頷き、その視線がわずかに和らいだ。彼女は私の腕を掴む。その握力は固く、私を舞台から、クルーたちの囁きから遠ざけていく。私は鏡の向こう側にいる亡霊であり、彼女は私を、ガラスの奥深くへと導いていく。


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