飛び降りたニューハーフ(TS小説の表紙画像)

飛び降りたニューハーフ

【内容紹介】3組の男女の心の性を描くTS小説。小学校6年の時に知り合った男女が、中学、高校、大学、社会人となるまでの半生を追う小説。中学1年で男女3組の仲良し6人組ができるが、そのうちの一人がニューハーフになり勤務中に階段から飛び降りて重体になるという事件起き、仲間がバーに集合するシーンから物語が始まる。小学校6年での主人公と彼女との出会い、中学1年で6人組が成立した経緯、高校2年の京都旅行が回想形式で語られているが、爽やかでロマンチックなエピソードが満載されている。

登場人物

 この小説は中学一年になったばかりの四月に仲間になった仲良し六人組に関する物語です。男子三名、女子三名の合計六名ですが、中一の時に男女三カップルが成立し、成人後も三組のカップルが続いています。


カップルA
 男性 「僕」 榊原 はるか(旧姓 三沢)
 女性 「大地」 榊原 大地だいち


カップルB
 男性 「剛」 小笠原 ごう
 女性 「明日香」 水元 明日香あすか


カップルC
 男性 「雄太(優香ゆうか)」 笹本 雄太ゆうた
 女性 「勇気」 吉村 勇気ゆうき


 男女共通に使える名前が多いので少し紛らわしいかもしれません。

飛び降りたニューハーフ

 大手町駅のB4出口で妻と落ち合ったのは午後六時だった。二人で約束の場所へと急いだ。今朝のテレビで笹本雄太の飛び降り自殺未遂事件が報じられたので、急きょ共通の友人に声をかけて集まることになっていた。

 中学一年の時から親しくしている男女三人ずつの六人組のうち僕は榊原大地と結ばれ、小笠原剛と水元明日香のカップルは京都の大学を出て昨春の卒業後はともに大阪で勤務している。

 自殺未遂した笹本雄太と女医の卵の吉村勇気の関係は微妙な状況にあると聞いていた。 

 地下にあるバーへの階段を下りてドアを開けると、フロアの隅の四人掛けのテーブルに座っていた二人の女性のうちの一人が立ち上がって僕たちに手を振った。水元明日香だ。

「大地、こっちよ!」

 僕の妻の大地は大股で明日香に近づき、二人は手を取り合って再会を喜んだ。グレーのスカート・スーツが板についた明日香の姿がまぶしかった。黒のパンツスーツを着た女性弁護士である妻の大地に負けず劣らずの颯爽としたキャリア・ウーマンになっている。二人とも百七十センチ以上の長身でハイヒールを履いているので、飛び上がったらこのバーの低い天井で頭を打ちそうに見えた。

「大地、久しぶりね。こんなことで会うことになるとは夢にも思ってなかったけど」

「明日香が丁度東京に出張に来ていてラッキーだったわ」
と妻の大地が言った。

「剛は仕事が忙しいみたいで来られなかったけど」

「そりゃそうよ。大阪で働いてるんだもの。六人のうち四人が集まれて良かったわ」

「この四人で会うのは何年ぶりかな」
と僕が明日香、勇気、大地の三人の女性を見回して言った。明日香とその彼氏の剛が京都の大学に進んでからは、全員が揃って会う機会が減っていた。勇気はテーブルの上に置いたビールのジョッキに口をつけずに俯いたままだった。

「勇気、大丈夫?」
 大地は、勇気の方に手を置いて横に座った。黒いワンピースを着たスリムな勇気は今にも崩れ落ちそうに弱弱しく見えた。

「それで、雄太の容態はどうなの?」
 大地が勇気に聞いた。

「ICUに入ったままよ。生命維持装置につながれてる。多分ダメだと思う……」
 勇気が机の上に泣き伏した。

 勇気は、昨夜勤務先のビルから飛び降りて生死の境をさまよっている笹本雄太の彼女で、都内にある医科大学の六年生だ。

「新宿の繁華街でホステスが飛び降り自殺か」
というニュースがテレビで報道されたのは昨夜十一時過ぎだった。人通りの多い歓楽街に、ドサッと女性が降って来た。仕事中のホステスが階段の踊り場から飛び降りたらしく、危うく巻き添えになるところだった中年男性が路上でインタビューされる映像が流れていた。まだ、ホステスの名前は出ていなかった。

 そのホステスと雄太が結びついたのは、今朝、大地と朝食を食べながらテレビを見ていた時だった。

「新宿の歓楽街でニューハーフホステスが飛び降り自殺か」
という派手な画面の右下に、ホステスの名前が「優香(本名 笹本雄太)」と出ていた。

「見て、大地。これ、雄太だよ。どうしよう!」
 僕が叫んで、大地も大変なことが起きたことを認識した。

「とりあえず皆に連絡しといて。今日の夕方にでも皆で集まろうよ」

 大地は僕から仲間たちに連絡するようにと言って出勤した。


 僕の名前は榊原遥、旧姓は三沢だ。大学四年の時に、小六以来の腹心の友だった榊原大地と結婚した。卒業と同時に中堅商社に就職したが二ヶ月で退職し、それ以来は派遣社員の仕事をしながら家事をこなしている。前回の派遣の仕事が先週で終わったので、今週は無職、というより専業主夫だ。

 僕の配偶者の大地は大学三年の時に司法試験に合格し、東大法科を首席で卒業したスーパーエリート弁護士で、僕の誇りであり憧れの女性だ。

 中一になってすぐに成立した三カップル六人の仲間が、今までずっと続いてきたのには、それなりの理由がある。小六の時に起きたある事件を、僕と、ここにいる女子三人が秘密として共有してきたからだ。僕が友達の男子を二人仲間に引き入れて三組のカップルが成立したのだが、男子二名はその秘密については知らない。

 小六の時に起きた事件は今はもう時効だし、今となっては剛や雄太に知られたとしても大した不都合はないと思う。

小六の秘密の思い出

 僕が大地と仲良しになったのは小六の七月だった。
 榊原大地とは小学校で同じクラスになったことが一度もなかったが、女子なのに勉強も運動もトップの大地の名前と顔を知らない者はいなかった。
 僕は勉強も運動もそこそこで目立たない存在だったが、小六に上がったばかりの時に出した課題作文が入選し、同時に入選した大地と一緒に、山梨で開催される懇親会に参加することになった。その日はうちの小学校の終業式と日が重なったので、先生の同行はなく、大地と僕の二人だけで行くことになった。
 教頭先生に呼びだされて、懇親会参加の注意事項について説明を受けたのが、大地と話をする初めての機会だった。
「榊原大地です。よろしく」
と大地が先に自己紹介した。
「三沢遥です。どうぞよろしく」
と僕も挨拶した。
「遥と聞いて女子かと思ってたけど男子だったのね。私も自分の名前は嫌いじゃないけど、いつも男子に間違われるのよ」
「榊原さんは全学年のスターだから学校の中では男子と間違えられることはないよ」
「私たちはお互いに男女を間違えないようにしようね、アハハ」
と大地は煽てられた恥ずかしさを隠そうと、つまらない冗談を言って一人で笑った。
 大地と僕は同じぐらいの身長で、クラスでは真ん中より少し大きい方だった。


 懇親会は一泊二日で、大月駅のバス乗り場を午前九時に発車する貸し切りバスに乗ることになっていた。大月駅着八時四十九分のJRではバスの時間にギリギリなので、大地と相談した結果、一本早い列車で行くことにした。
 改札口で見つけた大地はピンクのTシャツにチェックのスカートという軽快な服装だった。僕はデートをしているような気分になって浮き浮きした。
「おはよう、三沢君。どうして手ぶらなの?」
と大地が僕に聞いた。
 その時、僕はカバンを電車の中に置き忘れたことに気付いた。しまった!
 カバンを置き忘れるのは僕の得意技で、何度か痛い目に会ったのに、また同じ失敗をしでかしてしまった。慌てて駅で遺失物届を書いたが後の祭りだ。
「仕方ないな。でも男の子なんだから一晩ぐらい着替えが無くても大丈夫よね」
と大地が言い、僕もその通りだと思って、気が軽くなった。
 バスの集合時刻まではまだ三十分以上あったので、僕たちは駅の周辺を探検することにした。その時、僕は二度目のドジをしでかしてしまった。広めの溝を飛び越えようとして足を滑らせ、ドブの中に倒れてしまい、胸まで真っ黒になったのだ。女の子の前でいい恰好を見せようとして無理をしたために起きた事故だった。
「クサイ! 早く脱いで身体を洗いなさい。そのままじゃバスに乗せてもらえないわよ」
 そこは丁度ガソリンスタンドの前で、ホースの付いた水道があった。大地がスタンドの人から許可をもらってくれて、僕にホースで水をかけた。
「早く、全部脱いで裸になりなさい」
 大地に言われて渋々裸になり、ホースの水で体中を洗って、きれいになった。しかし、服は汚れが全く落ちず、とても着られない。
「もう、仕方ないわね。私の服を貸してあげるわ」
 大地がカバンから出したのは、フリル袖の淡い水色のシャツと真っ白でボリュームのあるスカートがドッキングしたワンピースだった。
「そんなの着られるわけないだろう!」
「私だって自分の服を他人に貸すのはいやなのよ。でも、すぐに着ないとバスに間に合わないよ。三沢君ぐらいの髪の長さがあれば女の子の服を着ても大丈夫だって。さあ、早く」
 まだモジモジしていた僕に大地が言った。
「じゃあ、私一人で行くから勝手にしなさい。びしょびしょの汚い服を着て、お金もないのに三沢君ひとりでどうするつもり? 私には関係ないけど」
と言い捨てて大地は歩き始めた。
 財布もカバンの中だったことを思い出して、絶望的な気持ちになった。
「待ってよ。着るから、頼むよ」
「じゃあ、早く。一分で着なさい」
 僕は大地から借りたパンティをはいてワンピースを着た。自分の服は臭くて汚すぎるのでごみ箱に捨てた。
 何とか九時前に集合場所に到着した。バスの入り口に先生らしいおばさんが立っていた。
「一応間に合ったわね。ええと、名簿は榊原大地君と三沢遥さんになっているけど」
「私が榊原大地です。いつも男子と間違えられるんですが」
「じゃあ、女子二名に訂正しておくわ。一番後部の座席に座りなさい」
 先生に何か言いたそうにしている僕の手を大地がバスに引っ張り込んだ。
「その格好で、実は男子ですと先生に言うつもり? バカじゃないの」
と大地が僕の耳元で囁いた。


 バスが研修センターに着いたのは午前十時過ぎだった。バスを降りると、施設の受付で部屋のキーを受け取り、荷物を置いてから会場に集合することになった。
「榊原大地さんと三沢遥さんは二〇五号室ね」
と言ってキーを渡された。大地と同じ部屋に泊まると思うと恥ずかしさで足がすくんだ。
「早く行こうよ。私は別に恥ずかしくないから。それに、遥の裸はさっき飽きるほど見たし」
 大地から遥と呼ばれて抵抗があった。僕は人前で遥と呼ばれるのが嫌で、友達には必ず三沢君と呼ばせていたのだ。大勢いる場所で「三沢遥さん」と呼ばれて、返事をすると「なんだ、女じゃないのか」という反応があちこちから投げかけられるのが嫌だった。
「ねえ、苗字で呼び合わない?」
「私は大地と呼ばれるのが好きなんだけどな。じゃあ、君は三沢さんと呼んであげる」
「やっぱり僕が大地の服を借りてるだけで本当は男子だってことを先生に言った方がいいんじゃないかな。もし後でばれたら学校で叱られるかもしれないし、恥ずかしいよ」
「もし今カミングアウトしたら、三沢遥さんが女子の服装で参加していますと学校に連絡が行くのは間違いないわ。少なくとも明日解散するまでは隠しておいた方が身のためだと思うけど」
 僕も大地の意見の方が正解だと思った。なんとか女子のフリをしてみよう。


 ホールに集合したのは男子十五名と女子二十五名の合計四十人だった。普段の僕なら、こんな場合に男子と女子が三対五の比率だと「ヤッター」とガッツポーズをするところだが、今日は自分が女子に含まれているので喜べない。
 先生たちのお話しが終わった後で昼食になり、午後は小グループに分かれてシミュレーションゲームがあった。僕と大地は男子二名と女子三名のグループに入った。シミュレーションゲームとは、例えばA君がイジメられているのを知っていたB子が、先生に相談したところ、今度はB子がいじめに合ったというような架空のストーリーを与えられ、小グループで役割を決めて台本を読み、グループ内で小さな劇を演じた上で、ディベートするというものだった。
 一つ目のシミュレーションゲームでは、僕は親友が憧れている同級生の男子から誘われて一緒にお昼のお弁当を食べたところ、親友から恨まれてイジメに合い不登校になる女生徒の役を割り当てられた。大地はその親友の役だった。劇で女子の役を演じるのは勿論初めてであり、自分には起こりえないシチュエーションなのでピンと来なかったが、僕が主役で、セリフも一番多いだけに気が抜けなかった。
 大地が憧れている男子の役の佐伯君が甘い言葉で僕を誘い、僕は大地のガックリした表情を知りながら佐伯君の誘いに乗るのだが、台本通りに演じてみると、大地の視線が僕を突き刺すようで怖い感じがした。翌日、再び佐伯君と向かい合って僕がお弁当箱を開けると、そこには大地が入れたゴキブリが入っていた。大地はクラス中にボクについての不当な噂を流し、僕はクラスの全員からシカトされる。僕を誘った佐伯君までもがシカトに加わり、僕は学校に来なくなる。
 大地は女優としての才能があるのだろうか。迫真の演技で僕を追いつめ、本当に涙を流させた。僕は実際にクラス中からシカトされたような絶望的な気持ちになった。
 僕が学校に来なくなった後のクラスの反省会の形式で、五人が討論した。僕は不登校なので反省会には出られないはずだが、ゴーストのような立場で参加し、四人の発言を聞いていて被害者としてはどう感じたかというコメントを随所で求められた。
「私は佐伯君から誘われた時に、榊原さんからすごく怖い目で睨まれました。私は、榊原さんの佐伯君に対する気持ちを知っていたから、その時点で思いとどまるべきだったと、心から後悔しています。榊原さん、本当にごめんなさい」
「許すわよ、遥」
と大地が言って、僕たちは手を握り合った。今まで少しギクシャクしていた大地と僕との関係が一気に縮まって、昔からの親友のような気がしてきた。
「オイ、オイ、このシミュレーションゲームはそういう流れの話じゃないし」
と佐伯君が疑問を差し挟んだ。
 それぞれのグループがシミュレーションゲームの結果を発表した。僕たちのグループからは佐伯君が代表で発表した。佐伯君は僕が発言したコメントについて「三沢さんからこんな意外な意見も出ました」という形で発表した。
「女の子らしい、良い意見だと思います」
と先生からお褒めの言葉があり、僕は女の子らしいと言われて少し複雑だったが悪い気はしなかった。
 続いてふたつ目のシミュレーションゲームが始まった。それは、男女の仕事や役割分担に関して数人で話し合っている様子を描いた小劇で、普通と違うのは、男子が女子の役を、女子が男子の役を演じるという点だった。更に、台本を読み終えた後に行うグループ内の討論も、男子は女子の立場で、女子は男子の立場で発言しなければならないというルールになっていた。
 僕は男子の役割を演じ、討論も男子の立場でしゃべるのだから普段通りで良いのだが、佐伯君が
「なぜ家事を私たち女性に押し付けるの」
と女言葉でしゃべったり、大地が
「君たちは子供を産めるじゃないか。僕たち男性にとっては望んでもできないことだ」
というセリフを大真面目にしゃべる横で、僕が男子のセリフを読んでいると、何が何だか分からなくなってきた。
 セリフを読んでいるうちはまだ良かったが、討論会に入ると妙な雰囲気になった。男子が女子の立場で「私はこう思うわ」とオカマのようなトークが始まり、皆が笑いながらディベートした。女子は少し乱暴な男子の言葉でしゃべることには抵抗を感じない模様だった。普段から男の子っぽい言葉遣いの大地はすぐに男子に成りきって討論していた。
 大地が男女の服装に関する議論を持ち出した時、活発な討論になった。
「どうして僕たちはスカートをはいちゃいけないんだ? 女子はズボンもスカートも好きな方を選べるのに、不公平じゃないか」
と大地が本物の男の子のように言った。
「そうだよね。男子も女子も、好きなときに好きな方を着られる方が自由でいいんじゃないかな」
と僕が大地に続けたが、勿論これは本心からではない。
「でも、スカートは走りにくいし、パンツが見えやすいから運動には向いていないわ。スカートだと、ひよわな男子が増えるんじゃないかしら」
と佐伯君が女子の言葉で主張した。
「佐伯さんの意見では、男子がひよわなのは困るけど、女子はひよわでも良いということになるんじゃないか?」
と大地が少し腹を立てて聞いた。
「女性らしく着飾るためにスカートをはいて、その結果少々ひよわになっても仕方ないんじゃないかしら」
と佐伯君が苦し紛れに不用意な反論をした。
「その女性らしく、の意味が不明なんだよ。お前みたいな女子がいるから女子全体が迷惑するんだ!」
と大地がケンカ腰で言った。
「待って、榊原君。佐伯さんも、そんな意味で言ったんじゃないわ。佐伯さんはスカートをはきなれていないから軽い気持ちで失言しちゃったのよ。男子はスカートに対する淡い憧れを持ってるから、褒めるつもりで言ったのよ。ねえ、佐伯さん」
「そうそう、そんな感じよ」
と佐伯。
「三沢、お前、どっちなんだよ。男なら男らしくしゃべれ」
と大地が僕に言って、皆で大笑いになった。
 この異性と入れ替わる設定は刺激的で心の底がくすぐられるのか、他のグループでも僕たちのグループと同じように、何となく妙な気分になったようだった。僕だけはダブルの入れ替わりで、単純に考えると百八十度の変化を二度重ねれば三百六十度回転して元通りになるはずだが、二度目の百八十度が異次元の世界に捻じれ込んだような感じになって、他の人よりも心が大きく揺さぶられたと思う。
 でも、二つ目のシミュレーションゲームは男子と女子の距離を縮めるのに大きな効果を発揮し、男子との接触を避けていた僕でさえ、気軽に男子に話しかけられるようになった。


 夕食は五時半と早かった。施設の従業員が早く帰れるように、ここの夕食時間は早めに設定されているらしい。僕たちは皆お腹がすいていたので早い夕食は大歓迎だった。カレーライスにフライが付いていて僕たちにとっては豪華な食事に思えた。
 夕食後、全員六時半に大浴場に集合するように言われた。この施設は温泉が自慢らしく、収容人数の割に大きいお風呂があるとのことだった。
 僕は慌てた。女子と思われている僕は、勿論女子風呂に行かなければならないが、それは無理というものだ。まだ胸が小さいままの女子もいないではないが、おちんちんを隠しきれるものではない。それに、もし裸の女子を見たら、興奮して前に固く突き出てしまい、益々隠せなくなる。
「困った、どうしたらいいんだろう」
 大地の手首を強く握って助けを求めた。
「いっしょに来なさい」
と大地は先生の方に歩いていき、僕は大地を追いかけた。
「三沢さんが生理みたいなんです」
と大地が先生に言った。
「そうなの、いつから?」
と先生が僕に聞いたので、
「今朝からです」
と僕は答えた。
 先生は僕の手を握って、
「何故恥ずかしがるの。生理はあなたが大人の女性になろうとしている証拠なんだから、誇りにしていいのよ。じゃあ、三沢さんは部屋で休みなさい」
と優しく言った。
「生理用品は持ってきたの?」
 先生から聞かれた僕が戸惑っていると、大地が「ハイと言え」という意味の目配せをしたので、
「はい、持ってきました」
と答えた。
 僕は部屋の中にひとりで手持無沙汰にしていた。部屋にはテレビも無く、なにしろカバンも無くて、着の身着のまま、それも大地から借りたワンピースとパンティの二点セットだけだから、何もすることを思いつかない。
 大地が風呂から帰って来たのは七時半だった。
「おかえり、遅かったね」
と大地を迎えた。
「楽しかったよ。美肌になる温泉なんだって。遥も一緒にくればよかったのに」
「バカ、一緒に行けるわけないじゃない」
と僕は口を尖らせた。
「そうだね。生理じゃ、仕方ないよね」
と大地が僕を虐める。
「そうそう、流星が見られるかもしれないんだって。希望者は午後八時に玄関に集まることになっているから、遥も一緒に行こうね」
「流れ星が見られるの?」
「やぎ座の流星群だって」
 大地がカバンから虫よけスプレーを取り出して、二人とも身体中にスプレーした。スカートの中の太ももの内側にもちゃんとスプレーするようにと大地から言われた。
 八時に玄関前に行くと既に全員が集まっていた。先生の後に続いて数百メートル離れた川沿いの窪地まで歩いた。あいにくの満月だが空気が澄んでいるので、満天の星が見える。
「新月の頃だと暗いところを歩くのは危険だからセンターの裏で見るんだけど、今日はこんなに明るいから、とっておきの観測場所に皆を連れてくることができるのよ。でも、大自然の中で迷子になると命にかかわるから、必ずペアーを組んで手をつなぐこと、いいわね」
 先生に言われて、大地は僕の手を握った。
 大地の手は冷たいが、とてもきれいな手だった。横顔を見ると、賢そうな顔の中にしっかりとした優しさが垣間見えて、ずっと手を繋いでいたい気がした。しばらく歩いていて、大地に見られている気配を感じて横を向くと僕と大地の視線が合った。
「何を見てるの」
と僕が聞くと、
「遥って可愛い顔をしてるなと思って。ドジだけど」
と大地が答えた。
「もう、大地ったら」
 僕は耳の付け根まで赤くなるのを感じたが、月明かりの下でそれが大地に分かったかどうかはわからない。
 皆、ペアで手を握り合ったまま空を見上げていた。
「あっ、流れた」
 誰かか叫んで天空を指さした。
 丁度僕たちの見ていた方向だった。その流れ星は、すーっと長い時間をかけて流れて消えた。
「見た?」
 大地が月明かりに目を輝かせて言った。
「うん、見た。よかったね。ホント、ラッキーだったね」
「ちゃんと願い事をした?」
と大地に聞かれた。
「あっ、忘れてた。事前に教えてくれたらよかったのに」
「私はしたわよ。遥とお友達になりたいって」
と大地に言われて、僕はそれが冗談かどうかを考える余裕もなく、オロオロした。
「遥は私と友達になりたいと思ってるの?」
 大地は二弾目の攻撃をしかけてきた。
「もう友達だよね」
というのが精いっぱいだった。
「親友っていう意味よ」
「うん、親友にしてくれたらとても嬉しい」
と僕は素直に答えた。
「じゃあ、遥と私は親友ね」
「うん」
 次の流れ星はなかなか見えなかった。フリル袖のワンピースを着た僕は段々寒くなって、両手を交叉させ、肩を手でこすって暖を取った。大地も同じことをしていた。僕は大地が寒そうにしているのを見てかわいそうだと思ったので、大地の背中側に立って、大地の両肩をゴシゴシと擦った。
「ああ、あったかい。気持ちいい」
と大地が言ったので、僕の心も温かくなった。しばらくして今度は大地が僕の背中に回り、肩を両手でゴシゴシとしてくれた。なんとも言えずいい気持ちになった。
 その時、天空を流星が走った。大地は背中から僕を強く抱きしめ、僕は硬直して呆然と流れ星を見送った。
「ずっとずっと大地と一緒にいさせてください」
と流星に願いをかけた。
「なんて祈ったの?」
 大地が聞いたので、僕は祈願した通りを教えた。
 大地は僕を強く抱きしめたまま続けた。
「じゃあ、私と一緒だね。私は遥と結婚したいと祈ったから」
 僕の胸が爆発しそうにドキドキするのが大地の手に伝わったのは確実だ。
「遥を私のお嫁さんにしますと流れ星に誓ったのよ」
 僕は大地の手を振りほどいて向き合った。
「お嫁さんはないでしょ」
「遥は女子なんだから、お嫁さんじゃない!」
と大地が言って、二人で笑った。
 それから、僕と大地は強く手を握り合ったまま夜空を見続け、更に二十分ほど過ぎて、皆と夜道を施設へと歩いた。もう寒いとは感じず、大地と僕はそれ以上ひとことも交わさなかった。でも、固くつないだ手は部屋に入るまで離れることが無かった。


 部屋に入ると、大地は僕の目を気にせずにパジャマに着替えた。僕は今着ているワンピース以外には着るものがないので、そのまま寝ようかと思った。
「そのまま寝るとスカートがシワになるし臭くなるかもしれないから、脱ぎなさい」
と言って、僕に薄い服を渡した。
「着るものはこれが最後よ。明日着ようかなと思っていた服だけど、遥に着させてあげる」
 それは細いストラップのチュニックで、股より少し下までの長さがあった。ミニスカートと言うには短すぎ、シャツというには長すぎる、中途半端な服だった。僕が大地から借りてはいているパンティと同系統のピンク系だった。
「よく似合うな。私より遥の方が似合ってる。可愛いよ」
 大地の言葉にはいつも少し虐めるようなトーンがあるが、褒められると悪い気はしない。
 僕たちは、並んでベッドの横に座り、おしゃべりをした。
「少し寒いね」
と僕が言うと、大地が腕を僕の肩に回して、
「肩が露出しているからね」
と言った。
「さっきの約束、本当だよ」
と大地が言った。
「うん」
と僕は答えた。
「あれっ、女の子なのにへんなところが膨らんでる」
 大地が僕のチュニックの裾を指でつまんで上げた。
「パンツのココがぐっしょりと濡れてる」
と、指で僕の固くなったものの先をパンツの上からつまんだ。
「やめて」
 僕は、両手でパンツの真ん中を隠した。
 エッチなことを考えるとパンツのある部分がネットリ濡れることはあったが、それ以上のことを僕はまだ経験したことが無かった。友達が話しているのを聞いて、固くなった時に強く握ってみたことはあるが、それ以上何も起きず、しばらくすると軟らかくなった。どうしたら出るのか、具体的に何が起きるのかについて、僕はまだ知らなかった。
「それって、ゴシゴシするといいんだよね」
 大地に聞かれたが、答えに窮した。
「遥はまだしたことがないの?」
「うん。どうやったら出るのかよく分からないんだ」
「ゴシゴシするんだよ。ユーチューブで見たことがあるけど、握って前後に動かせばいいんだ」
 大地は僕の前に来て、両手でパンツを下ろすと、右手でそれを強く握って前後に動かし始めた。
「あっ、やめて」
「バカ、隣の部屋に聞こえるから声を立てちゃだめだよ」
 大地は手の動きを止めず、僕はベッドの横に座ったまま上半身を倒され、口を閉じたまま「うーうー」と言った。それは間もなく終わった。太ももを強いしびれが襲い、来るべきものが来た。それは経験したことの無い刺激で、痛みと快感が一緒になった強烈な感覚だった。
 大地はその後も手の動きを止めなかったので、僕は耐えられなくなって大地に抱き付き、やっと大地の動きが止まった。右手で固く握ったまま、大地は僕の髪の毛を左手で撫でてくれた。長い時間が過ぎた。
「あ、こんなところまで飛んでる」
 大地が床に散ったネットリしたものをティッシュで丁寧に拭き取った。
 それから僕はパンツをはいてトイレに行った後で自分のベッドに横たわった。大地とのベッドとの一メートルの距離が遠く感じられた。
「遥、おいで。一緒に寝よう」
 大地に呼ばれて、僕は大地のベッドに行った。僕たちは抱き合ったまま深い眠りに落ちて同じ夢を分かち合った。


 翌朝、先生の講義の後は水泳の時間だった。
「はい、男子は先にプールに行って更衣室で着替えてからプールサイドで待ってください。女子はこの部屋で着替えてから、水着でプールに移動します」
 僕は先生の方に歩いて行った。
「三沢さんはお休みね」
 僕が何も言わないうちに先生が言ってくれたので助かった。
 もう一人の女子が先生に近づいて、
「生理が始まったので休ませてください」
と申し出た。
 男子が出ていった後、僕ともう一人の生理の女子を除く二十三人が一斉に服を脱いで水着に着替えた。スカートをはいたままパンツを脱ぎ、水着を腰まで上げてから、器用に上半身の部分を着るので、胸が見えるのはほんの一瞬だった。僕は席について出来る限り下を向いていたが、周り中の女子が着替えるのでどうしても少しは見えてしまった。でも、自分のスカートに手を乗せた姿で他の女子の胸が見えても、全く興奮せず、ただ罪悪感で目を伏せていた。
 僕たちはプールに移動し、仲間たちが水泳を楽しむのをプールサイドの長椅子に腰かけて見学した。
「三沢さんよね。私は水元明日香」
と明日香が自己紹介したので
「三沢遥です。よろしくね」
と答えた。
「知ってるわよ。昨日のシミュレーションゲームで先生から褒められて目立ってたから」
「恥ずかしいな」
「生理はいつからなの」
 明日香の質問には戸惑ったが、先生に言ったのと同じように答えた。
「昨日の朝から」
「違うわよ。初経はいつだったかを聞いてるの」
 初経という言葉は授業で聞いて知っていた。帰宅してからインターネットで検索して、女子には生理というものがあることを始めて知ったのだった。
「ああ、最初の生理ね。今年のお正月からよ」
「五年生で始まったの? 早いわね。かわいそう」
「どうしてかわいそうなの」
「生理が始まると身長が伸びなくなるからよ。遥ちゃんは何センチ?」
「四月の測定では百四十七センチだったけど」
「大人になったら最低百五十二センチは欲しいよね。後五センチ伸びるように頑張らなきゃ。不可能じゃないから、あきらめちゃだめよ」
 僕は小一のころから平均より少し背が高かったので、大人になったら百七十センチ以上になるのが当たり前だと思っていた。両親からは「百七十五になればいいんだけど」と言われていた。百五十センチに届くかどうかというレベルのことを言われてショックだった。
「明日香ちゃんは背が高いけど何センチなの?」
「私は百五十五センチよ。うちの家系は生理が遅くて、二人の姉も初経は中三だった。二人とも最終的には百六十五センチ以上になったから、私も最低でも百六十五センチまでは行くと思うわ」
「でも明日香ちゃんだけは小六で生理なんでしょう?」
「生理なんてまだよ」
「生理だから水泳を休んだんじゃないの?」
「泳ぎたくないから口実に使っただけよ」
「ひどい、ズル休みするなんて!」
「それよりも、遥ちゃんのオリモノってどんな色なの? 黄色、赤、それとも黒?」
と明日香に聞かれて答えに窮して、
「黄色よ」
と適当な答えをした。
「においはどうなの? 姉さんたちは臭いからイヤっていうけど、見せてくれないのよ。ねえ、遥ちゃんの生理、ちょっとだけでいいから見せて」
とスカートをめくろうと手を出した。
「いやよ。やめてよ」
 僕は立ち上がった。
「いいじゃない、少しだけ見せて」
「生理を人に見せるなんて絶対にイヤ! 今度スカートをめくろうとしたら明日香ちゃんが生理じゃないことを先生に言うわよ」
と僕は本気で怒った。
「はいはい、もうしないから。ちょっとだけ見せてくれればいいのに、ケチ」
と明日香がつぶやき、それ以上手を出そうとはしなかった。
「遥ちゃんと一緒にいる子、すごく頭が良さそうな感じね」
「榊原大地さんね。男子みたいなカッコいい名前でしょう。勉強は学年でトップで、運動でも一番なのよ」
 僕は大地のことを自慢したかった。
「遥ちゃんの憧れの人なのね」
「まあね」
「残念ね、女どうしだから結婚できなくて」
 昨夜大地が結婚の祈りを流れ星にしたことは黙っておいた。
 水泳の後、昼食になった。午後は先生のお話しがあって、楽しかった懇親会は終わった。最後に集合写真を取ることになり、僕は慌てた。先生によると、写真は後で参加者に学校経由で送ってくれるし、ウェブサイトにも掲載されるとのことだった。大地の服を借りたスカート姿の僕の写真を人に見られたら、僕は学校に行けなくなる。それこそシミュレーションゲームのような虐めにあって不登校になるかもしれない。
 考えた挙句、僕はトイレで髪を水で湿らせて、短髪のようにピシッとバックにした。一番後ろの三列目で、前に太った男子がいて顔だけしか写らない場所に立った。
 先生がセットしたカメラを施設の人がシャッターを押した。チーズとかピースとか言いながら皆の笑顔が写るように何度もシャッターが押されて撮影が終わった。


 貸し切りバスで大月駅まで送ってくれて解散になった。僕は大地に着いてきてもらって遺失物の問い合わせをしたが、僕のバッグらしい遺失物は無いようだった。JRの遺失物センターの電話番号を教えてもらって、帰りの電車に乗った。
 ひとつ困ったことがあった。大地に借りた服のままで家に帰るわけにはいかないということだ。
「私の家に寄って男の子っぽいシャツと短パンに着替えればいいよ。家の鍵は持っているから、ママに気付かれずに私の部屋まで行けると思うよ」
という大地の提案に従うことになった。
 駅から大地の家まで歩くのが最大の難関だった。万一小学校の友達に見られたら大変だ。僕は大地にお金を借りて新宿かどこかの百均でシャツや短パンを買えばよかったと後悔した。
「走ろう」
 大地が走り出したので僕は大地を追いかけた。スカートで走ると一歩踏み出すごとに太ももにスカートが引っかかるし、お尻のパンツが見えそうな気がした。
 幸運なことに知っている人に遭遇することは無く大地の家にたどり着いた。家の鍵は開いていて、大地はそっとドアを開け、僕たちは玄関で靴を脱いで抜き足差し足で二階への階段を上り、大地の部屋に滑り込んだ。
「あら、大地、今帰ったのね」
 大地のお母さんが、畳んだ洗濯物を大地の部屋のタンスに入れているところだった。
「お友達も一緒なのね。いらっしゃい」
 僕は会釈して「こんにちは」と言った。
「大地と一緒に懇親会に行った三沢遥ちゃんね。さっき大地のプリントを見たから、遥ちゃんのお名前を憶えていたのよ。一泊二日の旅行は楽しかった?」
「はい」
と僕は少し下を向いて答えた。
「遥ちゃん、恥ずかしがりやさんなのね。大地と同じクラスになったことは無いわよね」
「はい、今度の懇親会で初めて知り合いました」
「すごく楽しかったよ。シミュレーションゲームをしたり、流れ星を見たり、同じ部屋に二人で泊って親友になったんだ。ねえ、遥」
と大地が目を輝かせて言った。
「良かったわね。今度の参観日に遥ちゃんのお母さんにご挨拶しなくっちゃ」
「それがね、ママ、ちょっと事情があって、困るんだ」
 最悪の状況でパニックになりそうな僕の肩に手を置いて大地が言った。
「遥が自分のバッグを電車の中に置き忘れたから、私の服を貸してあげたんだ」
「遥ちゃんが大地の服を着ていることには勿論気づいていたわよ。それがどうかしたの」
「大月駅でバスに乗る前に時間があって、駅の周りを一緒に探検してたんだけど、遥がドジってドブに落ちて真っ黒になったんだ。裸になってガソリンスタンドのホースで身体を洗って、その時に私の服を貸してあげて、遥が着ていた服は汚すぎるからゴミ箱に捨てちゃった」
「それは災難だったわね、遥ちゃん」
「バスにぎりぎり間に合って、そのまま女子二名として参加したわけ」
「よかったじゃない」
「よくないんだよ。遥は女子じゃないんだ。本当は男子なんだよ」
「嘘でしょう。遥ちゃんが男子だなんて」
と言いながら大地のお母さんは僕のスカートをめくった。パンツの中でおちんちんが固くなっていて、お母さんは僕が男子だということをすぐに理解した。
「そうなんだ……クククッ」
 お母さんは手を口に当てたが、段々笑いがこらえられなくなって、アハハハハと大声で笑い、お腹を抱えた。
「スカートなんて絶対に嫌だったのに、大地に、嫌なら裸のままで放っていくって言われて、仕方なく言う通りにしたらあんなことになってしまって……」
 僕は恥ずかしさと絶望で泣き出してしまった。
「遥、泣くなって。女子として参加したから同じ部屋に泊まれたし、あんなに楽しかったんだよ。もし男子のままだったら私たちは友達になれなかったんじゃないかな。遥はその方が良かったと思ってるの?」
「イヤだよ、大地と友達になれないなんて、考えられない」
 僕は泣きながら大地の手を握った。
「わかったわ。絶対に誰にもばらさないと約束する。遥ちゃんが二日間女の子だったことは、お母さんにもしゃべらないから安心して。その代わり、どんな楽しいことがあったのか、全部教えてね」
「もう、ママったら。写真は沢山撮ったから、写真を見ながら話してあげる」
 大地はスマホからSDカードを取り出してリビングルームのテレビに差し込んだ。お母さんが出してくれたお菓子を食べながら楽しかった二日間について、わいわいとおしゃべりした。
「遥ちゃん、本当に可愛くって女の子らしいわね。大地と同じ背格好だけど、同じ服を着ていても、感じが全然違うわ。大地なんて男の子みたいな口の利き方をするし、可愛くないんだから。遥ちゃんのおちんちんと交換してくれないかしら」
「別に女子だからナヨナヨする必要はないし、男子だからガリガリする必要はないわよ。私と遥は、古い固定観念には左右されないから、遥におちんちんがあるままでも全然問題ないよ。ねえ、遥」
「う、うん」
と、一応肯定した。うん、と言わなければ、おちんちんを交換して欲しいという意味になってしまうからだ。
 大地は、二つ目の流星に「遥を私のお嫁さんにします」と誓ったことはお母さんにしゃべらなかった。それは大地と僕だけの秘密なのだ。
 僕は大地の体操服の短パンと青いTシャツを借りた。二日間着なれたワンピースを脱ぐのは何となく寂しい気がした。今後スカートをはくことは一生無いのだから。
「遥ちゃん、本当に何を着ても女の子らしくて可愛いわね。これからも、いつでも遊びに来てね」
 大地のお母さんに優しい言葉をかけられ、僕は元通り男子として自分の家に帰った。


続きを読みたい方はこちらをクリック!