拾った接種券:TS小説の表紙画像 拾った接種券

拾った接種券

【内容紹介】パンデミックに深く関わるTS小説。新型コロナ肺炎のワクチンの接種を待ち望んでいた大学二年の男性が他人の接種券を拾う。同封されていた運転免許証の写真が自分とよく似ており同年齢なので、その人のフリをして大規模接種センターで接種を受ける。ズルをしたことが招いた重大な結末とは?

第一章 拾得物

 香住かすみ公園の花菖蒲園はなしょうぶえんに通りかかった時、高校三年の古文の授業で教師が黒板の真ん中に書いた語句が頭に浮かんだ。

「何れ菖蒲か杜若」

 授業中にぼんやりと他の事を考えていた時に突然教師から名指しされたのだった。

板場いたば、読んでみろ」

 授業に集中していないことを見抜いて名指ししたのだろうが、僕は国語は得意なのであわてはしなかった。さっと立ち上がってその意味不明の語句を読んだ。

「いずれしょうぶか……とわか?」

 古文の教師はしてやったりという感じの笑みを浮かべた。

「三十三点だな。これは『いずれ、あやめか、かきつばた』と読む。アヤメとカキツバタの花は似ていて、つぶさに観察しなければ見分けがつかない。

 ぬえという妖怪を退治した源頼政みなもとのよりまさが鳥羽上皇から褒美に何が欲しいかと尋ねられて、美人の誉れが高い菖蒲あやめという女官を所望した。鳥羽上皇は後宮の美女をずらりと並ばせて、どの女が菖蒲あやめかを頼政に当てさせた。頼政は菖蒲あやめという女官が美人だと言う噂を聞いていただけだから、顔を見ただけではどの女性が菖蒲あやめか判別がつかない。だから頼政は『どの人も美しくて甲乙つけがたい』という意味で『何れ菖蒲あやめ杜若かきつばた』と んだわけだ」

「自分の部下の女官を並べてどれが菖蒲あやめかを当てたら褒美にやろうとはセクハラ極まる上皇ですね!」

「論点をずらすな。時代が違えば社会通念は全く異なるんだから」

 そんなことがあったお陰で僕は菖蒲あやめ杜若かきつばたという漢字の読み方を頭に叩き込んだだけでなく花全般に関する興味が湧いた。それまでは気に留めていなかったのだが、香住公園には「花菖蒲園」という看板が立っている一角があり『あやめ園』ではなく『しょうぶ園』と呼ばれていた。母に質問したところ、菖蒲と書いてしょうぶともアヤメとも読むが、花菖蒲はなしょうぶとアヤメは別の花であり、ともに杜若かきつばたと似ているとのことだった。

「花びらの付け根の部分に編み目の模様があるのがアヤメ、編み目が無くて付け根の中央が白いのが杜若かきつばたで黄色いのが菖蒲しょうぶよ」

「へえ、お母さんってどうしてそんなことまで知っているの?」

「お花を習いに行っていたからよ。花は女のたしなみだから」

 さらりと答えた母が輝いて見えたのを覚えている。

 父の転勤によって家族は去年の四月に大阪に引っ越し、僕は船橋にアパートを借りて千葉市にある大学に通学しているが、菖蒲の季節になると香住公園の花菖蒲園のことが気になり、週に二、三度は回り道をして咲き具合を見に行ってしまう。

 今年、菖蒲の花が開き始めたのは五月十七日ごろだった。五月末にはほぼ満開になり、六月に入ると徐々に花に力が無くなってきた。

 花菖蒲園には木道もくどうが巡らされており、近隣の住人が木道からスマホで写真を撮ったり、プロのカメラマンのような重装備をした人が来てレンズを向けたりしている。観光客で混み合うほど有名な場所ではないが、菖蒲の季節にはひっきりなしに人が訪れる。

 六月十七日の朝、香住公園の花菖蒲園に通りかかった時、僕以外には誰も居なかった。木道の角の所で紫色の花をクローズアップで写そうとしゃがみ込んだ時、木道の陰に袋が落ちているのに気づいて拾い上げた。

 それはA5サイズのジップロック付きのビニール袋で、二つに折りたたんだ書類とカードのようなものが入っていた。誰かが僕と同じように菖蒲の写真を撮ろうとしていて落としたのだろうと思った。公園の管理事務所に届けるべく、今来た道を引き返した。

 何が入っているのだろうかと興味が湧いて、歩きながらジップロックを開けた。中には印刷された書類が二枚と、その間に運転免許証と「接種券」と書かれた紙が入っていた。書類は大規模接種センターでの新型コロナ肺炎のワクチン接種に関する説明書で「六月十八日午前十一時予約確認済み」とメモが書き込まれていた。

 運転免許証は水沢和音という東京都在住の男性のもので、誕生日は僕と二日しか違わなかった。免許証の写真の顔が僕とよく似ていたので、これを僕が拾ったのは奇遇だと思った。接種の予約日時は明日の午前十一時と書いてあるが、間に合うように持ち主に届くだろうか……。

 僕は船橋市の住民だが、新型コロナワクチンの接種がいつになるかはまだ分からない。母とLINE通話した時に聞いた話だと、船橋市は高齢者の年齢別に接種券を発送しているが、六十五歳以上七十歳未満の高齢者への送付は六月の二十一日に始まる予定だそうだ。母が華道教室で親しくしていた船橋市在住の六十五歳の友人はまだかまだかと焦っているらしい。僕たち若者が接種券を入手できるのが何カ月先になるかは見当もつかない状況だった。

 既に若年層に接種券が配布された自治体もあるとテレビで知って、不公平だなと思っていた。僕は強力なインド型の変異ウィルスが流行するのが心配であり、ワクチンが間に合うかどうか強い不安を抱いていた。

 管理事務所の前まで来た時、僕の心に悪魔が現れた。

「この接種券と免許証を持って東京の大規模接種センターに行けばワクチンの接種を受けられる。この免許証の写真は僕と似ているから、きっと大丈夫だ」

 気がついた時、僕は管理事務所の前を通り過ぎて公園の北側の歩道を大学に向かって歩いていた。頭の中には新型コロナ肺炎に対する恐怖と、水沢和音という人物への申しわけなさと、自分が悪事を働くことへの拒否感がごっちゃになって渦巻いていた。

「いや、僕はまだ悪いことはしてはいない。この袋は学校の帰りに警察に届けることにしよう」

 自分にそう言い訳をすると気持ちが軽くなり、僕はまっすぐ大学まで歩いて行った。

 大学に着くと大規模接種センターについてネットで調べた。自衛隊が運営する大規模接種センターは六十五歳以上の高齢者が対象だったが予約の空きが出たため六月十六日から対象年齢を十八歳から六十四歳にも拡大したと書いてあった。水沢和音は既に自治体から接種券を入手していたので、大規模接種センターの予約開始当日に十八日の予約を取ることに成功したのだろう。

 接種当日に必要な書類は接種券、本人確認書類と予診票だと書かれていた。早速予診票をダウンロードし、昼休みにセブンイレブンに行ってネットプリントのアプリで印刷した。

 その「新型コロナワクチン接種の予診票」と題する用紙に、水沢和音の運転免許証の通りの住所・氏名・生年月日を記入して問診項目の解答欄にチェックを入れた。その時、僕は自分が悪人になったことを自覚した。

 僕はワクチン接種と引き換えに悪魔に魂を売ったのだった。

第二章 自衛隊東京大規模接種センター

 六月十八日の朝、東西線で大手町駅まで行った。グーグルマップの検索窓に「じえい」までタイプした段階で「自衛隊東京大規模接種センター」が候補地として表示された。大勢の人が大規模接種センターの場所を探しているからだろう。皇居のお堀沿いにしばらく歩くと大規模接種センターの入り口が見つかった。

 人の流れに沿って誘導員の指示通りに進むと自然に防衛省の建物の中に入った。「僕は水沢和音だ」と自分に言い聞かせ、頭の中で住所と生年月日を復唱した。体温を測定し、掲示に従って接種券、予診票、運転免許証を示すだけだったが、疑われた様子は全くなかった。

 受付エリアから建物の二階へと誘導されて予診票を提出した際、
「注射やお薬でアレルギーが出たことはありますか?」
と係官から質問された。僕はよどみなく、
「ありません」
と答えた。

 コロナワクチンの主な副作用がアナフィラキシーショックであり、アレルギーの有無が予診票の主な質問項目だということは知っていた。実のところ、僕は薬を飲んで湿疹が出たことが二度あるので「注射でアレルギーが起きたことは無い」と答えると嘘になるのだが、アナフィラキシーショックが起きるのは百万人に数人という交通事故より低い確率であり、仮にアナフィラキシーショックが起きたとしてもアドレナリンを注射すれば大事には至らないと聞いていたのでさほど心配していなかった。

 次の窓口で医師による問診を受け、数分間椅子に座って順番待ちをした後で、いかにも自衛隊の看護師という感じの女性が左腕に注射をしてくれた。

「ちょっと痛いですよ」
と言われたが少しチクッとしただけで、次の瞬間には終わっていた。

 案ずるより産むがやすし。他人に化けてコロナワクチンの注射を受けることがこれほど簡単だとは思わなかった。待合席で十五分間の経過観察時間を過ごせば帰っていいとのことだった。

 経過観察時間を利用して、二回目の接種を予約するカウンターで七月十八日の午前十一時の予約を取った。

 二回目の接種を受け来るべきかどうかについては迷うところだ。水沢和音という人物は接種券と運転免許証を紛失したことを警察に届け出るとともに、区役所に行って接種券を再発行をしてもらうための手続きをするはずだ。区役所が調べれば、紛失した接種券が既に大規模接種センターで使用されたことが判明する可能性が高い。その接種券番号で二回目の接種が予約されていることが分かれば、七月十八日にこの会場で待ち伏せされて逮捕されるかもしれない。

 しかし、全国で何千万枚も発行済みの接種券の相当な割合が不正利用されている可能性もあるから、いちいち待ち伏せしていては警察も人手が足りないのではないだろうか? いや、万一と言うこともあるから七月十八日の接種は諦めて、僕自身の接種券が手に入るまで待ち、何食わぬ顔で一回目の接種を受ければ、今日のとあわせて二回の接種を受けたことになる。待てよ……僕自身の二回目の接種券も使って、合計三回の接種を受ければ、コロナに対して非常に強い免疫ができるかもしれない! 

 今日のワクチンはモデルナ製だが、船橋市の接種にはファイザー製のワクチンが使用されると どこかで読んだ気がする。モデルナとファイザーのワクチンを組み合わせて使っても大丈夫だろうか? いや、ひょっとしたらその方が高い免疫効果があるかもしれない。一回目がモデルナ、二回目と三回目にファイザーのワクチンを接種したら、どんなコロナもはね返せる最強の免疫ボディーになるのではないだろうか! スマホに「コロナ、ワクチン、三回接種」のキーワードを入力して検索を開始した。

 その時、左手の甲にかゆみを感じた。軽く掻きながら手を見るとブツブツと赤い斑点が出ていた。もしかしたらワクチンの副作用が出たのかもしれない……。考える暇もなく体全体が痒くなった。これはまずいことになった! もし係官に気づかれて病院に連れて行かれたら、僕が水沢和音本人でないことがバレるかもしれない。警察に通報され、逮捕されて大学を退学になったとしたら……。僕は大変なことをしてしまった! 

――気づかれないうちに逃げなければ。

 経過観察時間が終わるのは六分後だ。それまでに全身に湿疹が広がっていたら経過観察エリアの出口に立っている係官に見とがめられるだろう。とにかく何とかこの場を耐え抜かなければ……。マスクの両端を引っ張って顔の大半が隠れるように工夫したが、息が苦しくなってきた。おまけにお腹が痛くなって下痢しそうだ。あと二分……。頭がフラフラして体に力が入らない。スマホとにらめっこしながら耐えた。

 経過時間終了と同時に僕は椅子を立って出口へと急いだ――急ぐはずだった。立ち上がると急に貧血状態になり、頭がジーンとなった。自分がその場に倒れ込むのを朧気おぼろげながら意識して、そのまま気が遠くなった。

第三章 助かった

 目が覚めたのはベッドの上だった。腕には輸液の管が固定されている。

 そうだ。僕は大規模接種センターで気を失ったのだった。あれがアナフィラキシーショックというものだったのだろうか……。

 壁と天井が白い無機質な感じの病室だ。僕が水沢和音でないことがバレたのだとしたら、ここは警察病院……? きっとこの部屋のドアの外には見張りの警察官がいるのだろう。

 しかし、僕はポロシャツとジーンズパンツのままだ。病院なら入院着に着替えさせられるのが普通ではないだろうか?

 気を失う前には体中に痒みがあったし息苦しかったが、今は何ともない。輸液の針を抜いて逃げようかとも考えたが、部屋の外で警察官が見張っているとしたら逃げるのは無理だろうと思った。拾った接種券を使ってワクチン接種を受けた場合、どれほどの罪に問われるのだろうか? 公文書偽造行使? いや、予診票に水沢和音の住所氏名等を記入したのは事実だが、それ以外はジップロックの袋に入っていた接種券と受診票と運転免許証を見せただけだ。そもそも若者のワクチン接種の見通しをちゃんと示さない自治体が悪いのだ。ワクチンを早く打ってほしいと切望していた僕の気持ちを情状酌量して、起訴猶予にしてくれるかもしれない。

 下手に警察の病院から逃げ出そうとして罪を重ねるよりは、大人しくしている方が賢明だと判断し、僕はじっとしていることにした。

 目を閉じてウトウトしているうちに眠ってしまったようだった。

 次に目を覚ましたのは、ドアが開いて女性が部屋に入ってきた時だった。二十代後半から三十代前半の背が高い女性で、接種会場で見かけた係員と似ているような気がした。

「気がついたのね。気分はどう?」

「いいです……普通です。やっぱりアナフィラキシーショックだったんですか?」

「そうよ。一分以内に医師が診てアドレナリンを注射したから大事には至らなかった。おとさんが倒れたのが会場内でラッキーだった」

「おとうさん? 僕はまだ独身ですよ」

「よかった、そんなダジャレが言えるほど元気なんだ。和音わおんと書いて『おと』と読むのよね。いい名前だわ」

――水沢和音みずさわおとと読むのか……。とにかく、僕が偽物だということはまだバレていないようだ。

「私は高校の同級生に和音かずねという子がいたから、運転免許証の情報から電話番号を調べて『みずさわかずねさんがワクチンの副作用で……』とご家族に連絡したの。その時に『かずね』ではなく『おと』だとわかったのよ」

「家族に知らせたちゃったんですか!」

「勿論よ。そろそろ親御さんが来る頃じゃないかしら」

「家族には会いたくありません。今すぐ退院させてください」

「退院って……ここは病院じゃなくて医務室なんだけど。アナフィラキシーショックが起きた場合には六~八時間の経過観察が必要だとマニュアルに書いてあるから、ドクターの許可が出るまで帰ってもらうわけにはいかないわ」

「困るんです。とにかく僕はもう帰ります」

「動いちゃダメ。手荒なことはしたくないからじっとしていなさい」

「手荒なことって……」

「私は自衛官だから格闘技は身についている。ちなみに柔道も二段なんだけど。あなたなら五秒以内に確実に倒せる」

「脅すんですか」

「勿論冗談よ。ワクチンの接種の副作用で倒れた人を、自衛官が大規模接種センターで殴り倒すはずがないでしょ。とにかくドクターの許可なく和音おとさんを帰すわけにはいかないの。わかった?」

「わかりましたけど……」

「外に見張りがいるから逃げようとしても無理よ。私はこれから和音おとさんの状況をドクターに報告して、早く帰りたがっていると言っといてあげる」

「よろしくお願いします」

 彼女が部屋を出て、僕はベッドに座ったまま部屋の中を観察した。ベッドの下には僕のジョッギングシューズが置いてあった。窓のない部屋で、出入口は一カ所だけだ。ドアの外に屈強な自衛官が座っているのなら逃げるのはまず不可能だ。トイレに行きたいとでも言って、隙を見て逃げ出すのがいいかもしれない。

 とにかく早く行動を開始しなければ、水沢和音の家族が来て偽物だとバレたら警察に突き出される。自衛官と警察官を一緒に敵に回せば太刀打ちできるわけがない……。

 腕の静脈に刺さった輸液の針をすぐに自分で引っこ抜くべきかどうか迷っていると、ドアが開いて一目で看護師と分かる中年の女性が入ってきた。

「水沢さん、寝てなきゃダメですよ」

「もう何ともないんです。この、アドレナリンの注射針を抜いてください」

「これは単なるリンゲル液です。アドレナリンはアナフィラキシーショックが起きてすぐに太ももに筋肉注射しました。あと二十分ほどで滴下が完了するから我慢してください」

「もう治っています。早くドクターに診てもらって退院させてください」

「五~二十パーセントの患者さんに六~八時間以内に二度目のアナフィラキシーが起きますから、早くても午後五時までは帰れません。一人で電車に乗っている時に二相性にそうせいアナフィラキシーの発作が起きたら命を落とすかもしれません。甘く見ていたら大変なことになりますよ」

「そうですか……でも……」

 その時、ドアが開いて男性三人と女性一人が入ってきた。

――万事休す。僕が偽物だとバレたのに違いない。

「あ、先生」
と看護師が言ったので、そのうちの一人は医者だと分かった。

 先生と呼ばれた人は僕を診察してから僕の母と同じぐらいの年齢の女性に言った。

「水沢和音さんは順調に回復されているようですね。本来はここで最低六時間の経過観察が必要ですが、かかりつけ医の澤本先生が同行されているということで、転院に同意します。二相性アナフィラキシーが起きる可能性がありますからお母さまも気をつけてあげてください」

「はい、承知いたしました」
と女性が答えたので驚いた。この女性が水沢和音の母親なのだ。至近距離で僕を見たのに偽物だと気づいていないようだ! 僕はそれほど水沢和音にそっくりなのだろうか? 

 もう一人の大柄な若い男性が僕を軽々と抱き上げて車椅子に乗せ、看護師がリンゲル液のバッグを車椅子のポールに吊り下げた。

 大柄な男性が車椅子を押してエレベーターの前まで来ると、水沢和音の母親がかかりつけ医と呼ばれていた男性に言った。

「澤本先生は和音を連れて先に病院に帰って下さい。私は書類手続きをしてからタクシーで追いかけます」

 母親は僕を和音と認識したままだった。

 澤本医師、大柄な若い男と僕の三人はエレベーターに乗り、裏玄関を出て、待っていた黒塗りの大型車に乗った。大柄な若い男が助手席に、澤本医師と僕が後部座席に座った。

 車が首都高に乗ってすぐ、澤本医師が僕の左腕から輸液の針を抜いてくれた。まだ輸液バッグの中にリンゲル液が残っていたが、やはり輸液はどうでもよかったのだなと思った。澤本から白い錠剤を手渡され、すぐ飲むようにと言われたので僕は水なしで呑み込んだ。

 転院先の病院の病室に入ったら、できる限り早くスキを見て逃げよう。いくらそっくりでも、水沢和音本人が帰宅した時点で僕が偽物だと判明する。病院に警察が来たら一巻の終わりだ。そう思って気を引き締めたが、僕は睡魔に襲われて眠ってしまった。


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